妻籠宿のあやかしさんたち


・【05 ハナマさんは派手好き】


 妻籠宿は五月八日に花まつりという、玄関先に花を飾る祭りがある。
 普段から花を飾っている家もあるが、この花まつりの日は、なお派手に花を飾る。
 そんな花まつりのあやかしさんが、ハナマさんだ。若い女性のような見た目をしている。
 働き盛りのOLさんといったような清潔感のある感じだけども、何をしているかは実際不明だ。
 ハナマさんは派手なので、カフェの中から外を見ただけでも一目瞭然で分かる。
 それにしても服や着飾った小物はそのまま観光客からは見えないらしい。一体どこまでがその範囲になるのだろうか。分からないことだらけだ。
 まあ誰も詳しくは教えてくれないし、もしかしたら誰も分からないのかもしれないけども。
 私は琢磨へ、窓の外を歩くハナマさんを見ながら、
「あっ、ハナマさんだ、今日も派手だね」
 と話し掛けると、琢磨は少し意地悪そうに笑ってから、
「そうだな、オミソは地味で申し訳ないって感じだけども」
「たとえ地味でも謝ってはいないし! というか派手で美しいオーラ出ちゃってるし!」
「黄色いモヤみたいなオーラがプ~ンとな」
「オナラじゃないし!」
「大丈夫、大丈夫、派手で美しいオナーラ出ちゃってるよ」
 と私の肩を叩いてきた琢磨。
 いや!
「オナーラって何だよ! だからオナラのオーラも出してないし、オナラのオーラってもはやオナラだろ!」
「というか女子がオナラ・オナラ言うなよ、クサいな」
「まず女子にクサいって言うな! というかオナラのフリは琢磨から出したんでしょ! 琢磨がこいたんでしょ!」
「こいたって言うなっ」
 と吹き出した琢磨に私は続ける。
「というか私はハナマさんの話がしたいのに!」
「ハナマさんは派手だよな、生花を服に付けているから時折花びらが落ちるんだよな」
 そう、ハナマさんは自分を剣山のようにして生花を付けているので、花びらが落ちる。
 花びらが落ちると観光客にも花びらだけは見えるようになるので、急に花びらが落ちてきたな、って、観光客が驚く時がある。
 不思議な現象はあやかしさんがしているとよく言うが、全くもってその通りなのだ。
 私は自分が脳内で反芻していたことにうんうん頷きながら、
「本当、ハナマさんは自分を剣山にしているからね」
「いやなんかハナマさんがトゲトゲしているみたいに言うな、明るく楽しいあやかしさんだろ」
「いや剣山はたとえだよ」
「だからって自分を剣山にしているじゃ、触れるモノ皆傷つけるみたいじゃん」
「そんな思春期のナイフみたいに言ってないし」
 と私がツッコむように琢磨へ言うと、琢磨は、
「いや思春期のナイフってなんだよ、思春期にナイフのようにキレている青年ならまだしも」
「少し言い間違えたのっ!」
「思春期のナイフって何? いろんなこと考えちゃって集中していないから、なかなか切れないナイフ?」
「いやだから言い間違えたって言ってるし!」
「よくそんな言い間違えたり、分かりづらいたとえするよな。一緒にいて飽きないわぁ」
 と言って笑った琢磨に私は口を尖らせながら、
「いつかは絶対飽きさせてやるからな!」
「いやいや、絶対飽きない、だってオミソは馬鹿すぎなんだもん。一生笑っていられるわ」
「というか一緒にいなきゃいいんだ!」
「……そ、そうかっ」
 そう言って一瞬寂しそうな表情をしてから、厨房に入っていった琢磨。
 いや何よ、その表情。論破されたらすぐそういう態度って印象悪いと思う!
 というか私だって論破するんだから! そういうこともあるだろうと予測しながら生きていけ!
 それにしても琢磨、時折厨房に入っていくけども、何しているのかな。
 まあいいや、こっちはこっちで仕事もあるし、無視しておこう。ホールの仕事をしっかりしなきゃ。
 琢磨がいなきゃ、悪口を言われる心配も無いし。
 あっ、誰か入って来た、というか誰だかはすぐ分かった。
 ハナマさんだったから。
「いらっしゃいませ!」
「年中花まつりのハナマちゃんですよー!」
 明るくダブルピースしながらカフェに入って来たハナマさん。
 相変わらず明るく楽しいあやかしさんだなぁ。
「とは言え、本番の花まつりは過ぎたばっかりなんですよねーっ!」
 とハナマさんが笑いながら、空いている席に座った。
 私は相槌を打つように、
「そうですね、五月八日が花まつりで、今は五月の終わり頃ですもんね」
「ここで気分が上がっちゃうような、美しい料理を食べてみたいなぁっ! って! 思っているんですよーっ!」
 とギャルピースをしてきたハナマさん。
「そうなんですか、美しい料理なんて私も食べてみたいですっ」
 と私が答えると、ハナマさんは少し上半身を前のめりにこちらへ向けながら、
「そこで! ツバツさんの話は聞いていますよーっ! 美園ちゃんと琢磨くんがオーダーした料理を作ってくれるサービスをしているんですってねぇっ!」
 ……いや、何か噂が変な広がり方を見せている! これが噂というヤツか! 口伝えの恐ろしさ!
 私は戸惑いながら、
「いっ、いや、そんな大層なモノでもないし、たまたまなんですよねっ」
 と言ったんだけども、ハナマさんはいつもの明朗な調子で、
「たまたまだなんて、またまたーっ! 謙遜しなくていいんですよっ! 美園ちゃんと琢磨くんの献身性は話題沸騰中!」
 どうしよう、めっちゃ期待されている……。
 さすがに私たちはまだまだだし……と思っていたら、後ろから琢磨の声がした。
「いいですよ、是非作らせて頂きます」
 振り返るとそこには琢磨が自信満々に立っていた。
 一丁前に腕を組んでやがる。ラーメン屋の店主かっ。
 ハナマさんはうっとりとした顔をしながら、
「さすが琢磨くん! 作ってくれるんですねぇっ! もう今から楽しみーっ!」
 私はすぐさま琢磨のほうに行き、小声でこう言った。
「そんな安請け合いして失敗したらどうするのっ?」
「失敗したら子供なんてすみませんでいいじゃん」
「いや子供を言い訳に使うなって」
「いいんだよ、子供は言い訳に使えるんだよ、子供なんだから挑戦するべきなんだよ。じゃあ大人になってから初めて挑戦して失敗したほうがいいか?」
 そう少しキツい口調でそう言った琢磨に私は少しその圧に蹴落とされながら、
「いや、じゃあ……子供のうちに失敗しておいたほうがいいけども……」
「というか大丈夫、俺とオミソなら大丈夫だ……それとも」
 ん? 何そんなちょっとまゆ毛を八の字にしちゃって。
 情けない表情だな、笑っちゃおうかな、と思っていると、
「俺と一緒は嫌か?」
 まゆ毛は八の字のままだけども真剣な瞳で私を見つめてきた琢磨。
 いや、いやいや、別に嫌ではないけども。嫌なんて強い感情は持っていないけども。
 というか止めてよ。そんな真剣に見ないでよ。
 でも見ないでよと言うのもあれだし。
 そうだ、こう言えば止めてくれるかもしれない、
「いや、嫌じゃないけども……」
 そう言うと八の字のまゆ毛も真剣な瞳も止めて、何だか安心しきった優しい瞳になって、
「じゃあ一緒にまた考えようよ」
 と言って笑った。
 何だろう、時折見せる琢磨のこういう感じ。
 何か変だけども。
 何か変だけども。
 嫌いじゃないなぁ。
「うん、一緒に考える……」
 そう私が言うと、琢磨は空気をスゥと吸って、ハキハキこう言った。
「俺とオミソで美しい料理作ってみせます!」
「やったぁーっ! 私楽しみに待ってますからねぇーっ!」
 そしてハナマさんは、今回は普通に米粉のシフォンケーキとハーブティーを頼んで、カフェでまったり過ごし、帰って行った。
 さぁ、今日は閉店からいろいろ考えるぞーっ。