ベッドの隣は、昨日と違う人

9話 大地に言われると





二軒目の店は、さっきより少し静かな雰囲気のバル。
照明が落ちていて、テーブルごとにぽつんと置かれたランタンだけが柔らかく光る。

席に着くと、大地はメニューを開いたまま、
「何飲む?」とも聞かずに、みいなの表情だけをうかがっていた。

(……言えって、顔してる)

でも、責めてるわけでも、急かしてるわけでもない。
“お前が話すまで待つぞ”っていう、あの昔からの大地の沈黙。

店員が去ったあとも、ふたりの間に少しだけ重い空気が残っていて、みいなはグラスの縁を指先でなぞった。

「……ねぇ、大地」

ようやく声が出た。

「うん」

大地は短く返す。視線は逃げない。

「……わたし、最近ちょっと……会ってる人、いて」

「知ってる。なんとなく」

「……なんで?」

大地は、肩を少しすくめてみせた。

「今日のテンション。富田にはバレてなかったけど、俺には分かるよ。
昔から……みいなの“なんかあった時”の顔、ずっと同じだしな」

(……やっぱり気づいてたんだ)

みいなは言葉に詰まり、口の中が急に乾く。

大地はグラスを置いて、少しだけ身体を傾ける。

「で?その“誰か”は……
今、みいなを悩ませてるってわけ?」

その言い方は優しいのに、核心を外さない。

みいなは視線を伏せ、机の木目を見つめながら、ぽつりとこぼした。

「……一昨日、会ってたの」

「うん」

「……その前にも、1回会って……」

「続いてるんだな」

責めてないのに、逃げ道がない。

「……でもね、大地。
なんか……よく分かんないんだよ」

「何が?」

「大事にされてるのか、都合よくされてるのか……。
どっちなんだろって、考えると胸がぎゅってなる」

ようやく言葉にした瞬間、喉が熱くなった。

大地はすぐには返さない。
代わりに、静かにみいなの手元を見ていた。

「……傷ついてるな、お前」

その一言で、みいなの胸がまた痛む。

「傷ついてないよ。わたしが勝手に……」

「いや、傷ついてるよ。
そうじゃなきゃ、その顔にならない」

みいなはびくっとして、大地を見た。
大地だけが知ってる、昔からのみいなの“弱る顔”。

大地はグラスを軽く揺らしたあと、低い声で続けた。

「……みいな。
お前は“好きじゃない男と寝ても平気なタイプ”じゃないだろ。わかってる?」

心の奥の柔らかいところを、そっと突かれたみたいで、みいなは苦しくなって視線を落とした。

「……わたし、どうしたらいいんだろ」

「まずは……ちゃんと話せよ。
相手が何を考えてるかくらい、聞かなきゃ分かんねぇだろ」

少し強い言葉。でも乱暴じゃない。

「みいなが傷つくの、見たくねぇから言ってんだよ」

その声は、昔から変わらない“大地”だった。

ふっと、みいなの胸がゆるんだ。
そして同時に、言いようのない居心地の悪さが広がる。

(……なんでだろ。
拓也くんじゃなくて、大地に言われると……安心する)