ベッドの隣は、昨日と違う人

31話 パンケーキ屋と彼女






「それでは、本日仕立てが終わるまでお待ちになりますか?
お時間、2時間ほどいただきますが……」

「はい。……いいよな?みいな」

「うん、もちろん」

「では、お願いします」

店を出ると、大地は思いきり背伸びをした。

「あぁ~、なんか緊張したわ」

「あはは。ね、なんか大人みたいだったね」

みいなもつられて、肩を回す。

「大人みたいって、もう大人だし」

「そうだけどさ。
高校の頃じゃ、考えられないことしてるなぁって思って」

「確かに、そうだな。
結婚式の2次会のためにスーツ選んでんだもんな」

「そうそう。
……あ、ねぇ、カフェでも入らない?
せめてご馳走させて」

「おう、ありがとう。
じゃあ俺、パンケーキ食う」

「え?あはは、いいよー。
じゃあ、あそこの生クリームたっぷりのハワイアンなとこ行く?」

「あ、そこ。
俺、ちょっと前から行きたいと思っててさ。
……男同士だと行きにくいだろ」

少し歩いてから、みいなはふと足を緩めた。

「ねぇ……今さらなんだけど……」

「ん?」

「今って、大地……彼女とか、いるの?」

「は?いたら同伴なんてしねぇよ」

即答だった。

「飲みに行ったり、話聞いたりすることはあってもさ……」

「……そっか」

「そっかって……なんだよ」

「いや……そう、だよね」

大地は少し間を置いてから、思い出したように言う。

「ほら、あの……里帆って子、いたろ。
あの子と別れて以来、だな」

「……そっか」




カフェに入ると、甘い香りがふわっと鼻先をくすぐった。
休日の昼下がり、窓際の席はほとんどがカップルで埋まっている。

大地はメニューを開いたまま、即決だった。

「俺、これ。チョコバナナのやつ。
生クリーム山盛りの」

「え、重くない?」

「だからいいんだろ」

そう言って笑う顔が、さっきスーツを着ていたときよりずっと気楽そうで、みいなは少し安心する。

「じゃあわたしは……フルーツのにしよ。
いちごとキウイ。で、クリームなし」

「らしいな」

「なにそれ」

「いや、みいなって感じ」

注文を終えて、アイスコーヒーとホットのカフェラテが先に運ばれてくる。
湯気の立つカップを両手で包みながら、みいなはさっきの会話を思い出していた。


カップに口をつけながら、少し間があく。

「ねぇ、大地」

みいなが、カップを両手で包んだまま言った。

「さっきの続きだけど……
いま好きな子とかも、いないの?」

大地はストローをくるっと回してから、あっさり答える。

「え?うん……特に、いないな」

「そっかぁ」

間が落ちる。

「欲しくない?彼女」

「そりゃ欲しいだろ」

即答だった。

「……そっか」

みいなは、少し笑って視線を落とす。

「みいなは?」

「え?」

「ほら、あいつ」

一拍置いて、みいなは小さく息を吐いた。

「あぁ……今週、会ったけど……ちゃんと帰った」

「お、そっか。偉かったな」

その言い方は軽いのに、ちゃんと“評価”だった。

「うん……でも断ったら、冷たくなったの。
だから……」

言葉が途中で止まる。

大地は何も言わず、アイスコーヒーを一口飲んだ。

「……うん」

短い相槌。

その沈黙が、不思議と重くなかった。