ベッドの隣は、昨日と違う人

3話 やめたいのにやめられない






支度をして部屋を出ると、廊下の照明の白さが目に痛かった。

エレベーターの中、並んで立っているのに会話が消える。

拓也はスマホをぽちぽち。
みいなは昨夜の自分を思い返して、内側がきゅっとなる。

──ほんと、何やってんだろ、わたし。

一階に着くと、拓也がカードキーを返却して軽く伸びをした。

「じゃ、駅まで一緒に歩こ」

外に出た瞬間、朝の冷たい空気が頬に刺さる。
みいなは少しうつむいて、拓也の横を歩いた。

「ねぇ、みいなちゃんさ」

ふいに拓也が言った。
心臓がぴくっと跳ねる。

「うん?」

「思ったより、経験少ない?」

「……え?」

「なんかさ。昨日、最初ちょっと緊張してたでしょ。慣れてない感じでさ」

一瞬、言葉に詰まるみいなを見て、拓也は軽く笑う。

「別に悪い意味じゃないよ?
むしろ……可愛かったなって」

言いながら、視線は前のまま。
もう“こっちを見てくる目”じゃない。

その温度差が、一番こたえる。

信号で立ち止まり、小さく息を吐いた。

「ねぇ……拓也くん」

「ん?」

「昨日のこと……ううん、なんでもない」

拓也は一瞬だけ眉を上げて、すぐ笑った。

「え、そんな深刻な顔するなって。
楽しかったじゃん、普通に」

──それが一番、しんどい言葉だよ。

でも、言わない。
言えない。

駅の入り口が見えてきて、拓也が足を止めた。

「じゃ……みいなちゃん、気をつけて」

「拓也くんも。……その、ありがとね」

「こちらこそ。暇だったら連絡して。
……またね」

軽く笑って、拓也は人混みの中に消えていった。

残されたみいなは、その背中が見えなくなるまで立ち尽くす。

(……暇だったら、って……。
でも、“また"って言われると嬉しい自分が嫌)

スマホを握りしめながら、ゆっくり歩き出した。

──ほんとに、やめたいのに。
──やめられない。

自分でも理由がわからないまま、そのループだけが静かに積み重なっていくのを、みいなは誰にも言えずにいた。