23話 胸の奥の違和感
夜。
待ち合わせの場所で、みいなはスマホを握りながら立っていた。
人の流れ、改札の音、行き交う声。
そのなかで、心だけが少し静かだ。
(今日は、ちゃんと帰る)
そう決めているのに、胸の奥は落ち着かない。
「みいなちゃーん」
振り返ると、拓也が手を振りながら近づいてくる。
「拓也くん」
「もー、会いたかったよ?金曜会えなかったし」
軽い声。
近づく距離。
いつも通りの温度。
「……うん。ごめんね」
謝る必要なんて、本当はないのに。
それでも反射みたいに言葉が出る。
「よし。じゃあ今日は何食べよっか」
そう言って笑う横顔を見ながら、みいなは思った。
(ちゃんと、見る)
優しさも。
甘さも。
違和感も。
全部を見てから、決めよう。
人通りの多い通りを少し歩いたところで、拓也がふと思い出したみたいに言った。
「ね、俺さ。今日、焼肉食べたいんだけどどう?」
振り向きざまの、軽い提案。
決め打ちみたいな口調だった。
(焼肉……ちょっと、重いかも)
一瞬そう思ったのに、みいなはそれを声にできなかった。
頭の中で理由を探すより先に、いつもの癖が出る。
「……うん、いいね」
自分でも、あ、とわかるくらい、間があった。
(こーゆーのも、断れないんだよね)
拓也はその小さなためらいには気づかず、もう前を向いている。
「よし、じゃ行こ行こ」
その一言で、今日の流れが決まってしまった気がした。
店に入ると、むっとした熱と、肉の焼ける匂いが一気に鼻に届く。
周りは仕事帰りの人たちでにぎやかで、笑い声も大きい。
席に案内され、注文を済ませると、ほどなくして肉が運ばれてきた。
じゅう、と音を立てて網の上で焼け始める。
その様子を見ながら、拓也が楽しそうに言う。
「ねぇ、みいなちゃん、知ってる?」
「……なに?」
「焼肉一緒に食べるカップルってさ、もうエッチしてるんだって」
一瞬、言葉の意味が頭に落ちてこない。
じゅう、と音を立てる肉を裏返しながら、みいなは曖昧に頷いた。
「……そうなんだ」
「ね?実際そうじゃん」
笑い混じりの声。
冗談みたいなのに、どこか決めつけるような響きがあって、胸の奥がきゅっと縮む。
(……こういう言い方)
なにげない一言のはずなのに、そこに含まれる前提が、みいなには重たかった。
少し間を置いて、みいなは意を決したように口を開いた。
「あの……拓也くんはさ」
「ん?」
「アプリで、他の人と……続いてたり、する?」
一瞬だけ、空気が止まった気がした。
「え?なに急に」
拓也は笑いながら、あっさり答える。
「んー、俺そんなマメじゃないしさ。
今はみいなちゃん、だけだよ?」
軽い調子。
考える時間も、迷う様子もない。
(……嘘、だと思う)
そう思ってしまう自分に、みいなは少し驚いた。
(なんかやっぱり……軽い)
違和感が、はっきりと輪郭を持ちはじめる。
「みいなちゃんは?」
拓也は、今度は探るみたいな目を向けてくる。
「金曜会ってたのって、男?」
言葉に、わずかな棘が混じる。
「……」
答えに詰まった一瞬を、見逃さなかったみたいに、拓也が笑う
「え、やっぱ男かー。
そっちの方が他のやつと会ってんじゃん」
「ちがっ……高校の友達と会ってただけで……」
言い終わる前に、拓也は肩をすくめた。
「はいはい。まぁいいけどね、どっちでも」
箸を進めながら、興味なさそうに言い切るその態度に、みいなは言葉を失った。
(……やっぱり)
胸の奥で、小さな違和感がはっきりした形を持ち始める。
(大地とご飯食べてるときは、あんなに楽しかったのに)
同じ「一緒に食べる」時間なのに、こんなにも違う。
夜。
待ち合わせの場所で、みいなはスマホを握りながら立っていた。
人の流れ、改札の音、行き交う声。
そのなかで、心だけが少し静かだ。
(今日は、ちゃんと帰る)
そう決めているのに、胸の奥は落ち着かない。
「みいなちゃーん」
振り返ると、拓也が手を振りながら近づいてくる。
「拓也くん」
「もー、会いたかったよ?金曜会えなかったし」
軽い声。
近づく距離。
いつも通りの温度。
「……うん。ごめんね」
謝る必要なんて、本当はないのに。
それでも反射みたいに言葉が出る。
「よし。じゃあ今日は何食べよっか」
そう言って笑う横顔を見ながら、みいなは思った。
(ちゃんと、見る)
優しさも。
甘さも。
違和感も。
全部を見てから、決めよう。
人通りの多い通りを少し歩いたところで、拓也がふと思い出したみたいに言った。
「ね、俺さ。今日、焼肉食べたいんだけどどう?」
振り向きざまの、軽い提案。
決め打ちみたいな口調だった。
(焼肉……ちょっと、重いかも)
一瞬そう思ったのに、みいなはそれを声にできなかった。
頭の中で理由を探すより先に、いつもの癖が出る。
「……うん、いいね」
自分でも、あ、とわかるくらい、間があった。
(こーゆーのも、断れないんだよね)
拓也はその小さなためらいには気づかず、もう前を向いている。
「よし、じゃ行こ行こ」
その一言で、今日の流れが決まってしまった気がした。
店に入ると、むっとした熱と、肉の焼ける匂いが一気に鼻に届く。
周りは仕事帰りの人たちでにぎやかで、笑い声も大きい。
席に案内され、注文を済ませると、ほどなくして肉が運ばれてきた。
じゅう、と音を立てて網の上で焼け始める。
その様子を見ながら、拓也が楽しそうに言う。
「ねぇ、みいなちゃん、知ってる?」
「……なに?」
「焼肉一緒に食べるカップルってさ、もうエッチしてるんだって」
一瞬、言葉の意味が頭に落ちてこない。
じゅう、と音を立てる肉を裏返しながら、みいなは曖昧に頷いた。
「……そうなんだ」
「ね?実際そうじゃん」
笑い混じりの声。
冗談みたいなのに、どこか決めつけるような響きがあって、胸の奥がきゅっと縮む。
(……こういう言い方)
なにげない一言のはずなのに、そこに含まれる前提が、みいなには重たかった。
少し間を置いて、みいなは意を決したように口を開いた。
「あの……拓也くんはさ」
「ん?」
「アプリで、他の人と……続いてたり、する?」
一瞬だけ、空気が止まった気がした。
「え?なに急に」
拓也は笑いながら、あっさり答える。
「んー、俺そんなマメじゃないしさ。
今はみいなちゃん、だけだよ?」
軽い調子。
考える時間も、迷う様子もない。
(……嘘、だと思う)
そう思ってしまう自分に、みいなは少し驚いた。
(なんかやっぱり……軽い)
違和感が、はっきりと輪郭を持ちはじめる。
「みいなちゃんは?」
拓也は、今度は探るみたいな目を向けてくる。
「金曜会ってたのって、男?」
言葉に、わずかな棘が混じる。
「……」
答えに詰まった一瞬を、見逃さなかったみたいに、拓也が笑う
「え、やっぱ男かー。
そっちの方が他のやつと会ってんじゃん」
「ちがっ……高校の友達と会ってただけで……」
言い終わる前に、拓也は肩をすくめた。
「はいはい。まぁいいけどね、どっちでも」
箸を進めながら、興味なさそうに言い切るその態度に、みいなは言葉を失った。
(……やっぱり)
胸の奥で、小さな違和感がはっきりした形を持ち始める。
(大地とご飯食べてるときは、あんなに楽しかったのに)
同じ「一緒に食べる」時間なのに、こんなにも違う。
