22話 ちゃんと、見る日
電車が動き出して、窓の外の景色がゆっくり後ろへ流れ始めた頃、みいなはスマホを手に取った。
画面をつけた瞬間、予想通りの名前が表示されていて、小さく息が漏れる。
拓也くん。
開く前から内容はなんとなく分かっていた。
それでも、指先が一瞬だけ止まる。
📱
「明日会える?」
短い一文。
余計な絵文字も、理由もない。
(……今回は当日じゃないんだ)
そんなことを思ってしまう自分に、みいなは少しだけ苦く笑った。
“当日じゃない”ことに、無意識に基準を置いている時点で、もう感覚がずれている気がする。
明日。
予定は、確かに空いている。
でも――
会いたいか、と聞かれたら、正直よく分からない。
美咲と大地に言われたことが、胸の奥で静かに反復する。
よく考えた方がいい、という信号が、弱く点滅しているのがわかる。
それなのに、こうして画面に拓也くんの名前が出ただけで、心が少し揺れる。
(でも……)
こないだは断った。
しかも、結構はっきり。
二回続けて断るのは、なんだか悪い気がする。
相手が悪いわけじゃない、って思ってしまう癖が、ここでも顔を出す。
電車の揺れに合わせて、みいなの気持ちも定まらないまま前後する。
指が画面の上を滑って、短い返事を打った。
📱
「うん、大丈夫だよ」
送信された文字を見つめながら、胸の奥が少しだけきゅっと締まる。
――また、会う。
でも今度は、流されるんじゃなくて。
甘い言葉に安心するだけでもなくて。
(ちゃんと……見てみよう)
彼が何を言って、どんな目をして、どんな距離で近づいてくるのか。
自分が何に反応してしまうのか。
拓也くんのことも。
それから、自分のことも。
電車は次の駅に滑り込み、ドアが開く。
みいなはスマホを伏せて、深く息を吸った。
――明日は、ただ会うだけじゃ終わらせない。
そんな小さな決意を、心の奥にそっと置いたまま、ホームに足を踏み出した。
「おはよう、みいな」
「おはよ、美咲」
朝の空気のなかで、みいなは一瞬だけ言葉を探す。
「……あのさ。今日また、あの人に会うことになった」
美咲の動きが、ぴたりと止まった。
「あんた、また今日……」
「ううん。今日は帰る。絶対」
少しだけ強く言ってから、続ける。
「それでね。
彼がどんなこと言って、どんなふうにわたしのこと扱ってるのか……ちゃんと、冷静に見てみる」
美咲はしばらく黙ってから、ふっと力を抜いた。
「そっか。すごいじゃん、みいな」
その声は、からかいじゃなくて、ちゃんとした応援だった。
「頑張っておいで」
「……うん。ありがと」
電車が動き出して、窓の外の景色がゆっくり後ろへ流れ始めた頃、みいなはスマホを手に取った。
画面をつけた瞬間、予想通りの名前が表示されていて、小さく息が漏れる。
拓也くん。
開く前から内容はなんとなく分かっていた。
それでも、指先が一瞬だけ止まる。
📱
「明日会える?」
短い一文。
余計な絵文字も、理由もない。
(……今回は当日じゃないんだ)
そんなことを思ってしまう自分に、みいなは少しだけ苦く笑った。
“当日じゃない”ことに、無意識に基準を置いている時点で、もう感覚がずれている気がする。
明日。
予定は、確かに空いている。
でも――
会いたいか、と聞かれたら、正直よく分からない。
美咲と大地に言われたことが、胸の奥で静かに反復する。
よく考えた方がいい、という信号が、弱く点滅しているのがわかる。
それなのに、こうして画面に拓也くんの名前が出ただけで、心が少し揺れる。
(でも……)
こないだは断った。
しかも、結構はっきり。
二回続けて断るのは、なんだか悪い気がする。
相手が悪いわけじゃない、って思ってしまう癖が、ここでも顔を出す。
電車の揺れに合わせて、みいなの気持ちも定まらないまま前後する。
指が画面の上を滑って、短い返事を打った。
📱
「うん、大丈夫だよ」
送信された文字を見つめながら、胸の奥が少しだけきゅっと締まる。
――また、会う。
でも今度は、流されるんじゃなくて。
甘い言葉に安心するだけでもなくて。
(ちゃんと……見てみよう)
彼が何を言って、どんな目をして、どんな距離で近づいてくるのか。
自分が何に反応してしまうのか。
拓也くんのことも。
それから、自分のことも。
電車は次の駅に滑り込み、ドアが開く。
みいなはスマホを伏せて、深く息を吸った。
――明日は、ただ会うだけじゃ終わらせない。
そんな小さな決意を、心の奥にそっと置いたまま、ホームに足を踏み出した。
「おはよう、みいな」
「おはよ、美咲」
朝の空気のなかで、みいなは一瞬だけ言葉を探す。
「……あのさ。今日また、あの人に会うことになった」
美咲の動きが、ぴたりと止まった。
「あんた、また今日……」
「ううん。今日は帰る。絶対」
少しだけ強く言ってから、続ける。
「それでね。
彼がどんなこと言って、どんなふうにわたしのこと扱ってるのか……ちゃんと、冷静に見てみる」
美咲はしばらく黙ってから、ふっと力を抜いた。
「そっか。すごいじゃん、みいな」
その声は、からかいじゃなくて、ちゃんとした応援だった。
「頑張っておいで」
「……うん。ありがと」
