ベッドの隣は、昨日と違う人

17話 初めて、断った日






「大地ってさ……ほんと、優しいっていうかさ……」

みいなはグラスを持ったまま、言葉を探すみたいに視線を少し落とした。
炭火の匂いがふわっと立ちのぼって、掘りごたつの中はじんわり暖かい。

そのとき。

──ピコン

スマホが小さく震える音。
テーブルの端で光った画面に、反射的に目が吸い寄せられた。

「あ、ごめんね、ちょっと」

みいなはそう言いながら、スマホを持ち上げる。

📱拓也
「みいなちゃん、いま何してる~?
俺飲み会なくなってさー、暇してる。
会いたいな~」

(……拓也、くん)

胸の奥が、きゅっと音を立てる。
さっきまで大地に向けていた気持ちが、急に引き戻される感じ。

そのわずかな間を、大地はちゃんと見逃さなかった。

「……どうした?」

箸を置いて、みいなの顔を見る。

「……もしかして、例のあいつか?」

一瞬、みいなは黙る。
嘘をつく理由もないし、ついたところで意味もない。

「うん……」

小さく頷く。

「なんて?」

声は低くて静か。でも、探るみたいな色がある。

「……飲み会なくなったから、今から会えないかって」

大地は箸を置いた。
グラスを触るでもなく、ただ、みいなを見る。

「ふーん」

その一言は淡々としてたけど、続く沈黙が少しだけ強かった。

「で、どうすんの」

みいなは、無意識にスマホを握り直していた。
今までなら、
“ちょっとだけなら”
“ごはんだけだし”
そんな言い訳が、勝手に頭に浮かんでた。

でも今日は、違う。

「……断るよ」

言葉にした瞬間、自分でも少し驚いた。

「今日は、大地と……飲んでるし」

大地は、ふっと息を吐いた。

「それ、理由にしていいんだよ」

「……え?」

「“今日は友達と飲んでる”
それだけで十分。気ぃ使う必要ない」

みいなは、もう一度スマホを見る。
画面は、返事を待ったまま。

指が止まる。
ほんの数秒。でも、その間にいろんな記憶がよぎる。

夜は優しくて、
朝はあっさりしてて、
それでも呼ばれると、また行ってしまっていた自分。

(……断るの、はじめてだ)

ゆっくりと文字を打つ。

📱
「ごめんね
今日は友達と飲んでるからまた今度にしよ」

送信。

既読がつく前に、画面を伏せた。

「……送った?」

「うん」

声が、少しだけ震えた気がする。

大地は何も言わず、グラスを持ち上げた。

「えらいじゃん」

その一言が、妙に胸に沁みる。

みいなは苦笑いして、肩をすくめた。

「なんかさ……
断っただけなのに、変な感じ」

「そりゃそうだろ」

大地は軽く笑った。

「でもな、それ
“流されなかった”ってことだから」

みいなは、じんわり温くなったグラスを両手で包む。

胸の奥にあったザワザワが、
完全じゃないけど、少しだけ静まっていた。

(……今日、来てよかったかも)

そう思った自分に、ちょっとだけ驚きながら。