ベッドの隣は、昨日と違う人

15話 大地へのお願い事





家に帰って、お風呂を済ませて、
ようやく落ち着いた頃。

ベッドに腰掛けたまま、スマホを手に取る。

あとで送る?
……いや、やっぱり、今。


📱
「大地、こないだはどうもありがとね!
あのね、ちょっとお願い事があって……
でも変なお願いだから、直接言う方がいいかな」

既読がつくまでの数分が、やけに長く感じた。
スマホを置いても、また手に取ってしまう。

📱
「なんか重大なことか?
いいよ。俺、木金どっちも空いてる」

即答だった。
相変わらず、考えるより先に動く人。

📱
「ありがとう。
じゃあ、金曜。こないだの駅で待ち合わせで」

📱
オッケー(スタンプ)


そのスタンプひとつで、少しだけ肩の力が抜けた。
——ちゃんと、会ってくれる。
その事実だけで、胸の奥が静かに温かくなる。




金曜日。
仕事帰りの駅前は、相変わらず人が多い。
改札の脇、待ち合わせに使われがちな柱のそばで、みいなは立ち止まった。

(……ちょうど2週間ぶり、だな)

「おう!」

背後から、少し低めの声。
振り向くと、スーツ姿の大地が手を軽く挙げていた。

「ごめんね、わざわざ」

「いいって。どうせ帰りだし。
それに……こないだの話の続きも、正直ちょっと気になってた」

一瞬だけ、視線が絡む。

「あ……」

(あ、これはまだ終わってないやつだ)

「じゃ、とりあえず行こうぜ」

大地はそう言って、自然に歩き出す。
ついていく形で並んだとき、距離が近いことに今さら気づいた。

「今日さ、みいなの好きな地鶏料理、予約しといた」

「え!もしかしてあそこ?」

思わず声が弾む。

「そう。炭の匂いする店。
前に“また行きたい”って言ってたろ」

「うれしー!さっすが大地!」

歩きながら、みいなは少しはしゃいでしまう。
そんな横顔を見て、大地は無意識に息を吐いた。

胸の奥で、言葉にならない違和感が揺れる。

信号待ちで止まったとき、みいながふっとこちらを見る。

「……なに?」

「いや。久しぶりだなって思って」

嘘ではない。
でも、全部でもない。

「え~?たった2週間ぶりだよ~?」

そう言って笑う、その顔が、思っていたより無防備で。

大地はそれ以上何も言わず、歩き出した。
ただ一つだけ、さっきより歩幅を合わせて。

夜の街に、炭の匂いが混じり始める。
この時間、この距離、この空気。

——“お願い事”を聞くには、まだ少し早い。