ベッドの隣は、昨日と違う人

13話 本当の気持ちはまだ分からない








朝、職場につくと、ちょうど美咲がマグカップを持ったまま声をかけてきた。

「おはよ、みいな。……早いね」

「……おはよ」

返事が遅れた瞬間、美咲がじいっと表情を読むように目を細める。

「……あんた、また昨日……」

指摘された途端、心臓が小さく跳ねた。

「うん……ごはんだけって思ってたんだけどね。
……大地にも色々言われたし……」

昨日の帰り道、あの低い声が胸をかすめる。
“みいなは軽く扱っていい子じゃねぇよ”

なのに、流されてしまった自分。

すると美咲が、あえて明るい声で切り込んできた。

「ねぇ、大地くんってさ、今彼女いるの?」

「え?いない、と思うけど……」

「……前々から言ってるけどさ、あんた大地くんにしときなって」

美咲はコーヒーを一口飲んで、余裕の笑みを浮かべる。

「……え? だって、そんなんじゃないんだって。
お互い、“ただの友達”だもん」

「そりゃ今は友達よ?でもさ――」

美咲はマグを置き、少し真面目な声に変わる。

「大地くんみたいなタイプって、付き合ったらめちゃくちゃ大切にしてくれるんだって。
見ればわかるもん。ああいう人、旦那向きなんだよ」


もうすぐ結婚する美咲は、みいなより大人に見えた。

「……でもさ、美咲。大地はそういうんじゃ……」

言いかけた瞬間、美咲が横目でじっと見てきた。

「ねぇ、みいな。
その“そういうんじゃない”って言葉……
拓也くんに対しても使ってたよね、最初」

みいなは、一瞬呼吸が止まるみたいに黙り込んだ。

「違うよ。大地は、ほんとに……」

「ほんとに?“ほんとに”友達?
困った時だけ頼って、傷ついた時だけ思い出して、でも自分からは踏み出さないようにしてるだけじゃない?」

嫌味じゃなくて、淡々としているのに、刺さる。

「……大地は優しいだけだよ」

「そう。優しいんだよね。
みいなが泣いたら放っておけない、でも手は出さないタイプ。
ああいう男さ、誰より大切にするけど、自分からは踏み込まないの」

美咲の声には経験の重さがあった。

「でもね」

少し間を置いて、美咲が続ける。

「大地くんみたいな人と向き合える時って……
みいな自身が“傷つく覚悟”じゃなくて、 “愛される覚悟”ができたときなんだと思うよ」

胸の奥が、ぞわっと揺れた。

(……愛される覚悟なんて、わたしにある?)

拓也の声が、頭のどこかでまだ響いている。

『彼女ってわけじゃないし』
『暇だったら連絡して』

そして、大地の声も。

『軽く扱っていい女じゃねぇよ』

同じ言葉なのに、触れた場所がまったく違っていた。

美咲は湯気の向こうで、少し柔らかく笑った。

「ま、すぐに答え出さなくていいよ。
たださ──みいな、もう自分の“怖い”から逃げない方がいい」

みいなは唇をきゅっと結び、視線を伏せた。

(わたし……なにから逃げてるんだろ)

美咲の言葉が、思っていた以上に深く沈んでいく。

そして気づく。
昨夜の寂しさよりも、今胸のなかに広がっているのは──

“ほんとうは、誰に手を伸ばしたいのか”

その答えを、みいな自身がまだ認められていないだけだった。






―――


第ニ章終了です!
お読みいただきありがとうございました。


二章で、物語の主要人物、大地が登場しました。
マチアプ拓也、同級生大地。
三章からも、二人の男性の対比を見ていただけると嬉しいです。


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