ベッドの隣は、昨日と違う人

12話 三度、流される





駅から少し歩いた先の、看板の灯りだけが浮かんで見える場所。
拓也の「行こっか」にうなずいたものの──みいなの足取りは、ほんのわずかに重くなっていた。

(……これでいいの?
大地に言われたばっかりなのに)

胸の奥で、その声だけが何度も引っかかる。

拓也の笑った顔。
前回の、あっさりしていた朝の空気。
「暇だったら連絡して」の、言葉の温度差。

全部が、じわじわ思い出されてくる。

そのとき、頭のどこかで、大地の声がよみがえった。

「みいなは……軽く扱っていい女じゃねぇよ」

足が止まりかけた瞬間──

「みいなちゃん?」

拓也が自然なふうに振り返る。
心配、というより、“察してほしい理由を探してる”みたいな目。

「どうしたの?」

「……えっと、その……」

言葉が出てこない。
理由を言えるほど、ちゃんと整理できてもいない。

拓也は一拍だけ待って、すぐに柔らかく笑った。

「ねぇ、早く行こうよ」

歩幅を合わせてくる。
手首を、落とされた灯りの影の中でそっと取られた。

「みいなちゃんと、早くふたりきりになりたい」

低い声で、軽く囁くように。
まるで迷いを上からそっと押しつぶすみたいに、甘さだけを差し出してくる。

温度のある言葉が耳の奥に触れると、みいなの胸の揺れは簡単に均されてしまう。

(……ずるいな)

そう思うのに、その“ずるさ”に弱い。

拓也の視線が近くなって、灯りがその瞳に反射する。
名前を呼ばれる前から、心が揺れてしまう。

みいなは、ほんの少しだけ息を飲んで──

「……うん」

それは、自分の中の迷いをなだめるような返事だった。
でも、声に出した瞬間、もう引き返せないのもわかってた。

拓也の表情がふっと明るくなる。

「行こ」

ホテルの入口の前で、彼が先に軽く扉へ手を伸ばす。
その背中を見ながら、みいなは胸の奥に小さな痛みのようなものを抱えたまま、あとをついていった。