11話 三度目の夜
大地にいろいろ言われた帰り道、みいなは何度もスマホを見た。
言われた言葉は全部、正しい。
だけど正しいものほど、胸の奥にひどく残る。
(……ほんとは、わかってるのに)
週明け、急に来た拓也からのLINE。
土日はお互い休みのはずなのに、連絡すらない。
誘いが来るのは決まって平日の夜だ。
「今日空いてる?会いたい」
胸がぎゅっとなって、次の瞬間にはもう理由を探していた。
(会うだけ。ご飯だけなら……いいよね)
ほんとは違うって、どこかで分かってるくせに。
拓也の歩幅に合わせて歩いていた指先に、ふと触れた彼の手が揺れた――その直後だった。
「──あれ?拓也さん?」
反射的に、拓也の指がぱっと離れた。
その一瞬の速さが、言葉より正直で。
みいなの胸はきゅ、と縮む。
同僚らしき男性が近づいてきて、気さくに笑った。
「おつかれっす……あれ?彼女さんですか?」
拓也の表情が固まる。
笑顔を作ろうとして、作れないときの顔。
「いや違う違う。友達。な?」
促されて、みいなも笑顔を作る。
“友達”の顔を。
「……はい。友達です」
声が、少しだけ遅れて喉から落ちた。
同僚が去っていく数秒のあいだ、空気がぴたりと重くなる。
「……みいなちゃん、怒ってる?」
その言い方が逆に、胸に刺さった。
“怒ってるかどうか”しか見てない声。
「怒ってないよ」
その嘘を、自分が一番知ってる。
拓也は肩をすくめて言う。
「ごめんって。でも会社のやつに変に思われたくないってわかるだろ?
ほんとに彼女ってわけじゃないし」
“ほんとに”
そのたったひと言が、思った以上に冷たかった。
みいなは返せない。
返したら泣いてしまう気がした。
拓也は、みいなの沈黙を別の意味に受け取ったのか、急にやさしい顔を作る。
「な?こうしてたらわかるじゃん」
そっと抱き寄せられる。
そのとき、ふわっと彼の鼻先がみいなの髪に触れた気がした。
「……みいなちゃん、いい匂いする」
低く落ちた声。
さっきまで同僚と話していた顔とはまったく違う。
ほんの一瞬、理性がほどけるみたいな、あの表情。
「今日さ……飯、あとで……中で食べね?
みいなちゃん可愛すぎて、俺もう我慢できない」
その甘さは、みいなに弱いところを分かってるみたいで。
(……そんなの言われたら……)
“行っちゃダメ” の小さな声が、また簡単に埋もれていく。
同僚と別れた直後なのに。
切り替えの速さが、逆に胸をひりつかせる。
(ごはんだけって……思ってたのに)
それでも、
「……うん」
言ってしまった自分がいちばん分かってる。
“好き”じゃなくて、“弱い”の方で返事をしてること。
拓也はぱっと笑顔になる。
「ほんと?嬉しい」
その笑顔だけは、ずるいくらい嘘じゃない。
みいなは、胸の奥がちくっと痛むのを抱えたまま、けれど歩く足だけは止まらなかった。
(大地……言ってたよね。
わたし、こうなるって)
その痛みすら、甘い方に流されていく。
大地にいろいろ言われた帰り道、みいなは何度もスマホを見た。
言われた言葉は全部、正しい。
だけど正しいものほど、胸の奥にひどく残る。
(……ほんとは、わかってるのに)
週明け、急に来た拓也からのLINE。
土日はお互い休みのはずなのに、連絡すらない。
誘いが来るのは決まって平日の夜だ。
「今日空いてる?会いたい」
胸がぎゅっとなって、次の瞬間にはもう理由を探していた。
(会うだけ。ご飯だけなら……いいよね)
ほんとは違うって、どこかで分かってるくせに。
拓也の歩幅に合わせて歩いていた指先に、ふと触れた彼の手が揺れた――その直後だった。
「──あれ?拓也さん?」
反射的に、拓也の指がぱっと離れた。
その一瞬の速さが、言葉より正直で。
みいなの胸はきゅ、と縮む。
同僚らしき男性が近づいてきて、気さくに笑った。
「おつかれっす……あれ?彼女さんですか?」
拓也の表情が固まる。
笑顔を作ろうとして、作れないときの顔。
「いや違う違う。友達。な?」
促されて、みいなも笑顔を作る。
“友達”の顔を。
「……はい。友達です」
声が、少しだけ遅れて喉から落ちた。
同僚が去っていく数秒のあいだ、空気がぴたりと重くなる。
「……みいなちゃん、怒ってる?」
その言い方が逆に、胸に刺さった。
“怒ってるかどうか”しか見てない声。
「怒ってないよ」
その嘘を、自分が一番知ってる。
拓也は肩をすくめて言う。
「ごめんって。でも会社のやつに変に思われたくないってわかるだろ?
ほんとに彼女ってわけじゃないし」
“ほんとに”
そのたったひと言が、思った以上に冷たかった。
みいなは返せない。
返したら泣いてしまう気がした。
拓也は、みいなの沈黙を別の意味に受け取ったのか、急にやさしい顔を作る。
「な?こうしてたらわかるじゃん」
そっと抱き寄せられる。
そのとき、ふわっと彼の鼻先がみいなの髪に触れた気がした。
「……みいなちゃん、いい匂いする」
低く落ちた声。
さっきまで同僚と話していた顔とはまったく違う。
ほんの一瞬、理性がほどけるみたいな、あの表情。
「今日さ……飯、あとで……中で食べね?
みいなちゃん可愛すぎて、俺もう我慢できない」
その甘さは、みいなに弱いところを分かってるみたいで。
(……そんなの言われたら……)
“行っちゃダメ” の小さな声が、また簡単に埋もれていく。
同僚と別れた直後なのに。
切り替えの速さが、逆に胸をひりつかせる。
(ごはんだけって……思ってたのに)
それでも、
「……うん」
言ってしまった自分がいちばん分かってる。
“好き”じゃなくて、“弱い”の方で返事をしてること。
拓也はぱっと笑顔になる。
「ほんと?嬉しい」
その笑顔だけは、ずるいくらい嘘じゃない。
みいなは、胸の奥がちくっと痛むのを抱えたまま、けれど歩く足だけは止まらなかった。
(大地……言ってたよね。
わたし、こうなるって)
その痛みすら、甘い方に流されていく。
