メイドはご主人様に偽装恋人を依頼する

 お昼ご飯を食べ終わり、何気なく廊下に目をやる。



 そこにはありふれた光景――






蓬莱(ほうらい)奏斗(かなと)くんが女の子に声を掛けられている姿があった。




 ひとり、ふたり。





……あ、もうひとり増えた。




「奏斗くぅん! 昨日はあ・り・が・と。助かっちゃった♡ またよろしくね!」
「奏斗、奏斗! ねぇねぇ、放課後ヒマ? 遊びに行こーよ!」
「奏斗くん、助けて! 午後一の授業で小テストあって大ピンチなのー! 勉強教えてー」


 おお……




一瞬で三人もの女の子に取り囲まれてる。


都会のショッピングモールで見つかっちゃった芸能人みたい。






 わたしは視線を教室内へと戻し、
窓際の席にいる佐藤くんに近づいた。



「佐藤くんっ! ちょーっとお願いがあってさ」
来栖(くるす)くん? 非常に優秀でどんな問題も自力で解決できる来栖くんがお願い?」




 佐藤くんはメガネのつるに手を掛け、レンズを光らせる。




「いったいどんな無理難題が飛び出してくるのか……。
真面目な来栖くんの頼みとあっては聞いてあげたいところだが果たして
……続きを話してくれたまえ」



 佐藤くんは体ごとわたしの方を向き、真剣な顔をして耳を傾けてくれる。






 佐藤くんはわたしのことを真面目と言ったけれど、彼のほうがよっぽど真面目。




 わたしがこれからする〝おねがい〟に幻滅しませんように、と祈りながら話す。





「実は……その、言いにくいんだけど」



 うぅ





……緊張するなぁ。






 断られちゃうかな?




 断られちゃったらどうしよう……。







「わけあって……







彼氏のふりをして欲しいの!」










「「彼氏のふり?」」








 なぜか









前からと後ろから同じ言葉が聞こえた。










 前から聞こえた声はもちろん佐藤くんのもの。










でもって後ろから聞こえた声は……。






「か……蓬莱くん?」




 振り向くと、
奏斗くんが真後ろに立っていた。






四人の女の子を引き連れて。
……さっき見たときより増えてるし。












 え、どうして奏斗くんがここに?










「なんだよ、り……来栖。彼氏欲しいの? 俺じゃダメ?」







 絶句するわたしを置いて、奏斗くんは話を進めた。












 わたしが答える前に、奏斗くんの周りの女の子たちが騒ぐ。











「えー⁉ 来栖さん図々しくない?」
「つり合ってなさすぎー。気まずくなってすぐに別れるっしょ」













 どうしよう。




否定も肯定もできずに固まってしまう。








 否定したら、




わたしが奏斗くんと付き合いたがってると思われてしまうかもしれない。







でもこのまま



……奏斗くんの前で馬鹿にされたままにしておくのも嫌だ。






 どうしようか悩んでいたわたしは、またしても一歩出遅れた。