「えっと...ロミオさま?あなたのその...」
演劇の練習中、美亜は、いつも以上に声が上ずっていた。相手役の男子(まだロミオ役は確定していないが、仮で配役されている)の顔を見るだけで、心臓が早鐘のように鳴り出すのだ。
その原因は、紛れもない、如月先生にあった。
如月先生は、この演劇の顧問として、練習に顔を出していた。
その穏やかな眼差し、時折見せる優しい笑顔。
「如月先生と今日の美亜、なんだかいつもと様子が違うね?顔ちょっと赤いよ~?もしかして、カエルの卵見つけちゃったの?!」
練習の合間、明里が美亜の隣に座り込み、心配そうに声をかけた。
彼女のつけまつ毛は、また片方だけ、不自然な角度で止まっている。美亜は、慌てて首を横に振った。
「う、ううん!別に、カエルの卵なんて...!ただちょっと暑いだけよ。」
「暑い?でも、今日は風が気持ちいいくらいだよ?それともロミオ役の早瀬くんが、近すぎてドキドキしちゃったとか?」
「ち、ちがう!...とにかく練習に戻るわよ!」
美亜は、明里の追及から逃れるように、慌てて舞台袖に引っ込んだ。
しかし、彼女の心臓の鼓動は、一向に収まる気配がない。
如月先生は、そんな美亜の様子に気づいたのか、優しく微笑みながら、歩み寄ってきた。
「叶さん、大丈夫ですか?少し、休憩しましょうか。」
「は、はい!ありがとうございます、如月先生!」
美亜は如月先生の声に、吸い寄せられるように返事をした。
如月先生の隣に立つと、ふわりと石鹸のような、清潔感のある香りがする。
その香りに、美亜はさらにドキドキしてしまった。
まさに、恋する乙女というやつだ。



