もう一度、好きになってもいいですか?

碧に打ち明けてから、少しだけ胸が軽くなった気がする。
悠翔くんの家にみんなでお泊まりしたのは、刺激的ですごく楽しかった。

夕飯の匂いが残るリビング。

 母はソファに座り、スマホを握りしめていた。
画面には、笑顔の男性と並ぶ母の写真がちらりと見える。


「…美咲。明日家に呼ぼうと思ってるの。」


 胸が凍りついた。
 その言葉、何度も聞いたことがある。

 “紹介したい人”
 “上手くいった”
 “家に呼ぶ”

 そのたびに母は恋をして、笑って、そして泣いた。

前回もそんなこと言っていたけれど、今回は我慢できなかった。

 
「……ほんとに?」


 気づけば声が尖っていた。


「本当にって、何よ」


 母の眉がわずかに動く。


「お母さん……どうして懲りないの?」

「懲りない? 美咲、どういうこと?」


 ソファの上で姿勢を正す母に、美咲は言葉を止められなくなっていた。


「だって、毎回同じじゃん!
好きになって、夢中になって、でもうまくいかなくて……結局、泣いて、それでまた“今回は”って!!」

「……っ」

「私、何回も見てきたんだよ。小さいころから。
もうやめてよ……そんなの。聞きたくない」


 母は一瞬黙り込み、視線を落とした。

 けれど次の瞬間、低い声で返してきた。


「…そう…美咲は、わかってくれるって思ってたのに」

「違っ……私は……」

「違わないでしょ。こんなお母さんだもんね」


 母の声は震えていた。

 けれどその瞳は、怒りと寂しさで濡れている。


「結局私は頼りない母親よ。
 失敗ばかりして、最後には美咲に泣きついて……。
でもね、美咲。私だって、人を好きになることをやめられないの」

「……!」


 返す言葉が見つからない。
 母の声は強くて、だけど今にも泣きそうで。

 リビングに沈黙が落ちる。
 時計の針の音だけが響いて、胸を刺した。

(それなら私はどうすればいいの?)

 視界が滲んで、思わず立ち上がった。


「ごめん……ちょっと出てくる」


 母の呼び止める声を背に、美咲は玄関を飛び出した。
 夜の空気は冷たくて、心のざわめきを余計に強くした。