もう一度、好きになってもいいですか?

チャイムが鳴り終わった放課後。
廊下には部活に向かう生徒たちの声があふれていた。
昇降口を出たとき——ふいに視線を奪われる。


「……碧?」


校門のところで待っていたのは、制服ではなく私服姿の碧だった。
背の高いシルエットが、夕陽に照らされて少し大人びて見える。


「あ、美咲!迎えに来たよ〜」


当たり前みたいに言うその声に、胸が跳ねる。


「わざわざ? 碧の学校、遠いのに」

「でも……美咲に会いたかったからさ」


不意打ちに、頬が一気に熱くなる。
——そのとき。


「美咲?」


背後から声がして振り返ると、心葉が立っていた。
手にはスマホを抱えている。
悠翔くんとメールでもしていたのだろう。


「わぁ……イケメン登場だね」


からかうように笑いながら、碧と私を見比べる。


「違うの、心葉! ただの幼馴染で……」


慌てて否定する私に、碧が笑みを浮かべて口を挟んだ。


「いや、俺は“ただの”つもりないけどな」

「!!」


心臓が飛び出そうになって、心葉は「わぁ!」と歓声をを出している。


「ふふ、バスケの時の男の子でしょ?
いいなぁ、美咲。なんだか青春って感じ。
……でも、ほんとに幸せになってね」


そう言って手を振り、先に帰っていった。
去っていく心葉の背中に、どこか安心と少しの切なさが混ざって見えた。

二人きりになった校門前。

碧がこちらを覗き込む。


「……やっぱり朝比奈さん、勘がいいな」

「ほんと……」


照れ隠しに笑うしかなかった。
——だけど、その帰り道。


「碧」


スマホに入った通知を見て、彼が一瞬だけ表情を曇らせた。

画面には「父さん」の文字。
背筋がぴんと張る。


「出なくていいの?」

「……後でかけ直す」


そう言って笑おうとしていたけれど、その笑顔はいつもより硬かった。

ほんの一瞬見せた影。
それが碧の抱えている“現実”なんだと、胸がざわついた。
でも、私はそっと言葉をかける。


「……大丈夫。私はここにいるから」


碧が目を見開き、それから少し照れくさそうに笑った。


「ありがとな、美咲」


その声に、胸の奥がきゅっと温かくなる。
——彼が背負っているものを、私も少しずつ知っていく。
そして、彼も私のことを知っていくのだろう。

…それが、なんだか怖くて怯えていた。