「ならないか。なら欲しいかねそろそろ」


と僕は、つい最近まで連絡を取り合っていた女性のことを考えた。しかしすぐに考えるのをやめ、目の前にいる魅力的な女性の顔を見た。女性も少し酔っているのか、頬や耳を赤く染めていた。白い肌が良く映える。まるで雪の中に咲く寒椿や山茶花を思わせた。こんな綺麗な人が、言ってしまえばこんな場所にいるなんて、どこか不思議な世界にでも迷い込んでしまったかのように思えた。僕は財布を落とした。買ったばかりの黒い財布だ。失ったものは大きい。でもそれは同時に、何かを繋ぎ止めている鎖を引きちぎったことにもならないだろうか。


だから言える。この女性のことが好きだと、今ならはっきりと言える。


「キミは恋人とは、どんな感じ?」


聞かなければよかったのに、聞かずにはいられなくて、聞いてしまった。


「んー、いるけど微妙ですよ。いないのと変わんない」


そう笑った女性が、僕はたまらなく憎らしく思った。微妙ってなんだ。いるという事実は変わらない。確かにこの先はどうかわからない。でも僕にはわかる。この女性は今の恋人と別れることなく、僕と繋がりを持っていく。連絡先を交換したり、お互い暇なときにはメッセージでやりとりをする。もしかしたら、通話で話すようなことや、今日みたいに顔と顔を突き合わせて、酒を酌み交わすこともあるかもしれない。でも結局のところ、女性に恋人がいるという事実は変わらないし、その事実に僕は、何度も打ちひしがれることになるのだ。さっき女性は「素敵」だと言ってくれた。でもそれは、女性にとって僕という存在が、都合がいいから「素敵」なのだと思う。もうこれ以上、誰かに都合よく使われるのは嫌だった。


だったら、いっそのこと、壊してしまおうと思った。