「こんばんは」


財布を落とした日の夜、僕はやけになって、滞在中のホテルの近くにある焼き鳥屋に入った。


カウンターに座ると、隣に30代くらいの女性が一人で飲んでいた。


「財布を落として見る世界は、いい眺めだな。恐るべき、神になった気分だ」


ぽつりとそうつぶやくと、隣の女性は笑って、「今のセリフ、『人間失格』ですよね?」と言った。


「よくわかったね」


「ちらーっと聞いたセリフでした。最近見たんですか?」


「いや、元々その映画好きで、よく見てたから。ふと降りてきた」