彼女は3本の四つ葉のクローバーを、1本は、カバンから取り出した本に挟んだ。本のタイトルには、『阿佐ヶ谷、れんこん、はさみ揚げ。』とある、新書サイズのペラペラな表紙の本だった。もう2本は子供たちにあげた。
そして、彼女は本をカバンにしまって、歩き出した。僕は後をついていく。彼女の歩き方は少し独特で、まるでスキップでもしているかのように、軽快だった。そんな彼女を、周りにいた、犬を連れている女性や、シルバーカーを押す老人が目で追う。この世界の指導者のように、神々しくも、恐ろしく見えた。僕は今、導かれている。
太鼓橋を鳴らしながら歩く、和霊神社の楼門をくぐると、大きな天狗とおたふくが僕たちを見下す。手水舎、ご神木の銀杏、石段を軽やかに、注連縄中をくぐると、左手に屋根付きのベンチ。東屋のようだ。
「いいところって、ここですか?」
「いいところでしょ?」
僕は彼女の横に座った。触れただけでわかる神聖な風が、心地よい。彼女はポケットから煙草を取り出した。ベンチの横にはスタンド灰皿があった。
「キミも、いる?」
「いえ、僕は煙草吸わないので」
「そう」



