女性が書き終わるのを、僕は、じっと座って待っていた。書き終えた女性の第一声を、合格発表の時と同じ心境で、待った。優しい言葉なのか、罵るような声なのか、そのどちらでもいいような気がした。コネクト。交信することに意味がある。僕は彼女と何か一つでもいい。繋がりが欲しかった。
女性は電子ペンを置いて、ふっとため息をついた。そして、そこに置いてあったペットボトルのお茶を、ぐびぐびぐび。音を鳴らしながら飲んで、さっきよりも長いため息をついた。
女性の目が僕の姿を捉えた。一瞬、眉をひそめ、怪訝そうな顔になったが、すぐに元の表情に戻った。
「いつもここで、漫画を書いているんですか?」
気づけば、僕の方から話しかけていた。彼女の第一声を待つと決めたのに、我慢ができなかった。いや、第一声があまりいいものではないと感じて、それをかき消したかっただけなのかもしれない。とにかく、僕は彼女に投げかけた。クエスチョン。きっと僕にとって悪い言葉は返ってこないはずだ。
「いつも? うん、いつも。ここかな? ここじゃないこともある」
彼女の声は、高すぎず、かと言って低すぎない、ちょうどいい高さだった。そのバランスが絶妙で、少しでも狂えば、僕の耳にわずかなノイズとして残って、一抹の不安に繋がっていたと思う。
「漫画家ですか?」
「ううん。ただの趣味」
「趣味。へえ、僕はどうも絵が下手で。書けるのが羨ましいです」
「書くだけだったら誰だって書ける」と彼女は立ち上がった。
「キミはまだここにいるの?」
「いえ、あなたがここからいなくなれば、ホテルに戻ります」
「じゃあ、私がまだここにいれば、どうなるの?」
「きっとまだ、ここにいると思います」
「それじゃ帰らないとね」と彼女は頭を掻いた。
「キミが風邪を引いてしまう」



