決意の翌朝、僕は酷い吐き気と酷い頭痛に苛まれていた。
持ってきていた胃薬を飲み、朝食にも行かず、ベッドで横になりながら午前中を過ごした。
宇和島城から童謡『とんび』のミュージックサイレンが流れてきて、ベッドから起き上がった。時計を見ると、12時ちょうどだった。二日酔いはだいぶ楽になり、僕は昨夜のことを改めて思い返した。まったく、あまりにも酷い酔い方をしたものである。これを酔いのせいにはしたくないが、それにしては短気だったし、軽率でもあった。
僕はここ数日、いろんな女性と出会った。その度に恋に落ちた。その女性たちは昨夜のように、彼氏がいたり、婚約者がいたり、既婚者だったりした。僕が恋に落ちるような女性で未婚者は、もうこの世に一人もいないんじゃないかと思った。20代の頃はきっと選り取り見取りだった。僕は顔は悪くないし、ユーモアのセンスだってあった。でもただ、出会うのが遅すぎたのだ。出会う可能性を排除してきたのだ。こんなことになるとわかっていたら、きっと僕は本能に支配されるような恋はしなかったはずだ。32歳。もう若くはない。世間ではまだまだ若いなんて言われるけれど、実際のところ、32歳と聞けば20代前半の女性は敬遠するし、恋愛対象にも入れてもらえない。
いつまで悔いていてもその事実は変わらない。かと言って、その現実に打ちひしがれて、残り少なくなった可能性を捨てるようなこともできない。
僕はパソコンに向かった。コーヒーを淹れ、飲みながら、頭の中に漂うものを文字で紡いだ。モノローグ部分の執筆は、カミソリのような寒さの中で、心をさらけ出すような作業だった。紡げば、その都度傷つき、ベッドのシーツを搔きむしるほどの痛みが全身を襲った。二日酔いのそれとは違う吐き気が込み上げ、頭がクラクラとした。それでも、僕は書いては消して、書いては消してと、3歩進んで2歩下がるように紡いでいった。ちょうど3000文字を過ぎた辺りで、『ふるさと』のミュージックサイレンが聞こえてきた。時刻は18時になっていた。



