クリスマスの約束


 「ねえ」

 わたしは声を出す。

 「どうした?」

 実際に返事をされると、わたしも何を放していいのかが分からなくなる。


 「なんでわたしなの?」

 その言葉に彼は小さく息を吐く。

 「それを言う必要あんのか」
 「無いのかもしれない、けど」

 ああ、もう。如何したらいいの買わあkらない。

 如何会話をしていけばいいのかも分からない。

 「長谷川君は、どこに行きたいの」
 「どこでもいい」
 「どこでもいい?」

 どこでもいいって、明確な目的地があるわけじゃないってこと?

 「ただ、デートできれば別にどこでもいいんだ」
 「それってどういう」
 「変なことを言うなよ。今、手を繫げているだけで幸せなんだ」

 変な事と言われても。

 「俺はこの街がきれいだと思っている。お前は?」
 「わたしも、きれいだと、思うけど」
 「なら、それでいい」
 「いや、わたしが聞きたいのは」

 そして彼の顔がわたしに向く。
 それだけで、言葉が詰まってしまう。

 「どうした?」


 いつもは何にも思わないはずの彼の顔が、今日はまぶしく思えてしまう。

 わたしはどうしたらいいんだ。
 わたしは、

 もう言っちゃおう、そう思えた。

 「なんで」

 わたしはそう、言葉を紡ぐ、

 「なんで幸せなの?」
 「そこまで言う必要あんのか?」
 「あるよ」

 わたしは小さな声で言う。

 「あるに決まってるよ。わたしたちはデートしてるんだから」

 実際その言葉を発すと、少し気まずく思えてしまう。

 デートのフリ、というのが本当の事なのだ。

 「デートだと思ってるのか」
 「どういう事?」
 「俺はデートのつもりだ。本物の」
 「え?」

 どういう事だろう。

 「俺の昔話を少し訊いてくれないか」

 その言葉に、わたしは小さくこくんと頷く。

 「俺は昔から、お前の事を知っていた」
 「それはどういう事?」
 「俺はお前の事を小学校の時から知ってたんだ」
 「小学生の時から?」

 わたしと、長谷川君。わたしが長谷川君と初めて出会ったのは、高校の時のはずだけど。

 「やっぱり忘れてしまってんのか」
 「え?」

 忘れた?

 「俺は、お前と、七歳の時のクリスマスに約束をした。クリスマスデートをしようって」
 「約束した?」
 「ああ、だけど俺が突然引っ越したんだ。親の事情でな。だから、そのことを気に病んでいた。だから、クラス表でお前の名前を見た時、喜びに満ち溢れたよ。なのに! なんで忘れてるんだよ」
 「ご、ごめん」

 だけどどうしてもあの子と、長谷川君が結びつかない。
 どうしても、

 「あなたが、クリスマスの約束の子なの?」
 「だからそう言ってんだろ」

 怒鳴られ、びくっとする。
 わたしは顔を俯かせた。

 「わりい、そんな顔をさせるつもりはなかった。……お前は約束を覚えていたのか?」
 「うん。でも、その相手は誰かは覚えてなかったんだけど」
 「そう言う事だったのか。俺もあれからだいぶ変わったしな」
 「変わったってどのあたりが?」
 「まず、一人称が僕から俺に代わったし、髪型も大幅に変えてるな。あと、眼鏡もコンタクトになった。性格も自分で修正した」
 「それ結構変わってるね」
 「だろ」

 そう言って彼はニヤリと笑う。

 「そんなに変わってたら気が付かなくて当たり前だよ」
 「でも、気が付いてほしかったなあ」

 そう言って彼はその高身長からわたしを除く。

 「ごめん」
 わたしがそう謝ると、長谷川君は笑った。