「芹田じゃねえか」
声がした。わたしは上を向く。
そこにいたのは、クラスメイトの長谷川茂也だ。
「長谷川君……」
まさかこんな姿を見られるなんて、
消えちゃいたい。
「なんでここに」
「理由なんて言う必要あるか?」
「ない……けど」
「それこそお前こそここで何をしているんだ?」
「っ」
答えたくない。答えるのが怖い。
「まさかクリぼっちとかなのか?」
図星を突かれた。
にやつかれている。
そう言えばこの人はこういう人だった。
人の事を笑う人間だ。
「それは貴方じゃないの?」
長谷川君も一人だ。
長谷川君に、そんな事を言われたくない。
長谷川君に、彼女と待ち合わせ中、だなんて言われたら、わたしはどう答えたらよくなるんだろう。
「ああ、一人だよ」
苛々しているように言った。
「誰も彼も恋人がいるなんて思わないでくれ」
その言葉に、わたしは思わずくすっと笑ってしまう。
「なんだよ」
「いえ、なんでもない」
わたしは思わず場を取り繕う。
「何だよ」
そう、ため息をつかれる。
「悪いのかよ」
「悪いなんて言ってないけど」
だって、恋人がいないのは、わたしも一緒だから。
「少し歩こうぜ」
「え?」
わたしは首をかしげる。
「こんな空気感の中、一人で歩きたくねえんだよ。デートのフリしたら、少しはましになるかななんて思ってんだよ」
「相手は誰でもいいってこと?」
「そう言う訳じゃねえ。知ってるやつだから、ってことだ」
そんなこと言っても、わたしたちクラス邪ほとんど喋ってなんかないでしょ。と、言いたい気持ちでいっぱいだ。
だけど、そんな事を言ってこの提案をむげにしたら駄目だという事をわたしは知っている、
「分かった。仕方ないから」
そう、わたしが言うと、「分かってんなあ」彼もまた言った。それがおかしくて、わたしはふふと笑う。
「ほら、手をつなぐぞ」
そう言われ、わたしは彼の手を取る。
なんとなくあったかい。そう感じた。
わたしたちは一緒に手をつなぎながら歩く。その道中、周りの者たちが不思議と明るく見えた。
だけど、会話はない。
如何会話をしていけばいいのかが分からなかった。
わたしは別に。彼の事が好きでも嫌いでもないと思う。
少し陽キャ寄りで、わたしたちの事をたまにおちょくる、男友達予備軍みたいな感じだ。
だけど今日の彼は、少しかっこいいと感じる。
そもそもわたしは制服姿の彼しか見たことがなかった。
だから不思議に感じるのだろうか。



