婚活アプリで出会った人が運命の人だった

イベントホールのメイン会場。
恵は若いカップルに説明をしていた。
新郎の宮之上幸人と、新婦の大湊かなえ。
2人は結婚式場を探しているという。

「以上になりますが、何かご質問はございますか」

恵が丁寧に尋ねた。

「あの」

かなえが口を開きかけた時、宮之上が遮るように言った。

「大丈夫です。他も回りたいので失礼します」

宮之上が立ち上がる。
かなえは不安そうな表情で、恵を見た。

「あの!」

恵が思わず声を上げた。
宮之上が振り返る。

「なんでしょうか」

見回りをしていた高杉が、恵たちの声を聞いて立ち止まった。

「結婚式はご新婦様の意向をきちんと聞いてあげてください」

宮之上が鋭い目で恵を見る。
恵はひるまなかった。

「宮之上様は結婚式をいつから意識しましたか」

高杉が、興味深そうに恵を見つめた。

「結婚を決めてからだよ」

宮之上が面倒くさそうに答える。

「かなえ様はきっと幼いころからです」
「は?」
「シーツをウエディングドレスにみたて、結婚式を夢見るのです」

恵は事前の情報を得る為に新郎新婦のSNSをチェックしていた。
そこには新婦がシーツをウエディングドレスにみたてて包まっている昔の写真が載っていた。
#結婚式ごっこ

かなえは驚いた顔で恵を見た。

「お前、何言ってるんだ」

宮之上が呆れたように言う。

「結婚式への思いは男性より女性の方が夢見ていた期間が長いんです。だから、かなえ様の意向をもう少し聞いてあげてください」

恵は真剣な表情で言った。
宮之上が恵を睨みつける。
その時、高杉が2人の間に入ってきた。

「宮之上様、大変失礼いたしました」

恵は驚いて高杉を見た。

「私の方で話を聞かせていただきます」

高杉が丁寧に言う。

「高杉さん、この人いったい何なんだ」

宮之上が苛立った声で言った。
高杉の口ぶりで、この宮之上がVIPであることがすぐにわかった。
高杉が恵を見た。
その時、初めて目があったのだがぞくっと背筋が凍った。
冷たい目――そんな簡単な言葉では言い表せないほどの目つきだった。
口元は笑っているが目は笑っていない。
それは恵にだけに向けられた目だった。

「私の方で厳しく指導いたします」
「なっ」
「是非、お願いしたいね」

宮之上が満足そうに言った。
恵はおでこをかきむしった。

「高杉さん、今日は帰る。また連絡するよ」
「はい」

高杉が頭を下げる。

「行くぞ、かなえ」
「はい……」

かなえが恵をちらっと見て、小さく会釈した。
恵も気まずそうに会釈する。
宮之上とかなえを会場の外まで高杉が見送りに行った。
恵は宮之上夫妻が最後の客だったので片づけを始めていた。

すると見送りが済んだ高杉が恵の元に戻ってきた。

「ちょっと良いですか」

恵は驚いて高杉を見た。

「なんでしょう」
「こちらへ」

高杉が先に歩き出す。
恵は不安を抱えながら、その後について行った。