婚活アプリで出会った人が運命の人だった

数日後。
イベントホールの裏廊下を、恵が1人で歩いていた。
手には会場の案内図と、タブレット端末。
美咲に頼まれて会場のチェックをしているところだ。
誰もいない静かな廊下。
恵の足音だけが響いた。

遠くでドアが開く音がした。
男性が1人、廊下に出てきた。
スーツ姿。整った顔立ち。
恵は目を見開いた。

(あれ?この人……)

毎朝見ている顔だ……Tさん。
高杉は恵に気づき、こちらに向かって歩いてくる。
距離がどんどん縮まる。
恵の心臓がドキドキと耳に響いた。

(どうしよう……)

タブレットを持つ手にじっとりと汗が滲む。
高杉は恵を一瞬見たが、すぐに目を逸らし、そのまま横を通り過ぎていった。
恵は立ち止まった。
高杉はスタスタと歩き、角を曲がって見えなくなる。
恵は高杉が曲がった角を見つめた。

(私には気が付いていない……それとも本当に別人……)

婚活アプリのTさんとは別人かも。
そう思うと、少しホッとした。
というのも高杉に対して、ここ数日、良い噂は聞かなかった。
冷たい人、感情のないサイボーグ――

深呼吸をして、恵は再び歩き出した。