婚活アプリで出会った人が運命の人だった

昼休み。
社内のカフェテリアで、恵とアリサと中村健斗が昼食を取っていた。
中村はアリサの同期で映像編集スタッフだ。
真ん中にある楕円形の広めのテーブルを3人で囲んでいる。

「えー見たかったー」

中村が残念そうに言った。

「もうなんか、スカッとした!」

アリサが興奮気味に話す。

「もうその話はやめて。自己嫌悪」

恵が箸を置いてこめかみを両手で押えた。

「なんでですか?」

中村が不思議そうに尋ねる。

「いい歳して、感情がコントロールできない。イラッとしたら考える前に言っちゃう」
「でもあれは他人を庇ってやったことだし」

アリサがフォローする。

「だとしても他に言い方はあったよね」

恵は再び顔をあげて箸を持って自嘲気味に笑った。

「そんなこと考えるんですね」

中村が感心したように言う。
その時、加藤美咲が雑誌を数冊持って入ってきた。

「やっぱりここにいた!」

美咲は恵の同期で開発事業部に所属している。

「はい、これ」

美咲は雑誌を恵たち1人1人に配った。
恵が雑誌を受け取る。

「何?」
「うちの部署が今度やるイベントが雑誌で特集されたの」

中村が雑誌を指さした。

「ほんとだ。美咲さん、写真載ってるじゃないですか」
「そうなの!」

嬉しそうに言う美咲を恵は眩しそうに見つめた。

「美咲さん、輝いてるね」
「そう?」

まんざらでもないように美咲が微笑んだ。

「うん、うらやましいくらい」

恵は心の声が漏れた。
今日はどうも声として外に出てしまうようだ。

「そっか、恵はうちの開発事業部に異動願い出してたんだっけ」

美咲が思い出したように言う。

「そうなんですか?」

中村が驚いて尋ねた。

「ダメもとでね」

恵は軽く答えた。

「恵のことは大下部長が離さないでしょ」
「はははっそうかな?」

恵が感情のない返事をした時、アリサがいつもより1オクターブ高い声で叫んだ。

「この人かっこいい!」

一同がアリサを見る。
アリサが雑誌をじっと見つめている。

「どの人?」

美咲が身を乗り出した。

「この人です!」

アリサが雑誌を指さす。
見開きページで特集されている男性の写真。
1番大きな写真はスーツ姿で笑顔。
他の写真では真剣な表情など、様々なカットが並んでいる。
『映像業界を進化させたい』という見出し。
そして、『若手社長』という文字だけが大きく書かれていたので一気に目に入り、自分とは関係のない人物であると瞬時に恵の脳が理解した。

「ん?」

最近、めっきり視力が悪くなっていて、そろそろ眼鏡を買うか考えていた恵は写真の顔をしっかり見たくて自分が持っている雑誌で同じページを開いた。
プロフィールに『高杉直仁』という文字を見て恵は口元に手を置き、驚いた表情になった。

「あぁ、この人と仕事してるのよ、今」

美咲が軽く言った。

「え?」
「え!」

恵とアリサが同時に声を上げる。
同じ「え」でもアリサの「え」にはハートがついていた。