婚活アプリで出会った人が運命の人だった

美咲はコーヒーカップを両手で包み込むように持った。

「ねぇ、恵」
「なに?」
「高杉さんのこと、気になる?」

美咲が真っ直ぐに恵を見た。
恵は動揺した。

「え、いや、そういうわけじゃ」
「正直に言っていいのよ」

美咲が優しく笑う。
でも、その笑顔には少し影があった。

「別に、そういうんじゃないから」

恵が視線を逸らす。

「そう」

美咲が小さく頷いた。

「ならいいんだけど」
「それって、どういう意味?」
「やっぱり気になるんだ」
「いや、だって、あなた結婚してるじゃない。その言い方だとまるで」
「あー実はね」

美咲が声を落とした。

「私、今、夫と別居してるの」
「え」
「もうすぐ離婚する予定」

美咲が淡々と言う。

「そうだったんだ……知らなかった」
「誰にも言ってなかったから」
「それで、私も前を向こうと思って」

美咲が頬を染めた。

「新しい出会いを探してるの」

恵の胸が、ざわついた。

「高杉さん、いい人よ。仕事は厳しいけど、プライベートでは優しいし」

美咲がコーヒーを丁寧に飲んだ。

「私、高杉さんと仕事でずっと一緒だったから、よく知ってるの」
「待ってよ、まだ離婚してないんでしょ?早くない?」
「だって早くしないといい物件は取られちゃうよ」
「物件って……」

恵は呆れた。

「恵はまだ高杉さんのこと、あんまり知らないでしょ?」

どうやら高杉マウントを取られているようだ。

「高杉さんって、意外と寂しがり屋なのよ。誰かに甘えたいって思ってる」
「……そうなの?」
「うん。だから、私が支えてあげたいなって」

恵は胸が苦しくなった。そして思ってもないことを口にした。

「美咲さんなら、高杉さんと釣り合うと思う」
「そう? ありがとう」

美咲が嬉しそうに笑う。

「でもね、恵。もし恵が高杉さんのこと気になってるなら、遠慮しないで言ってね」
「え?」
「だって、友達だもん。恵の気持ちも大事にしたいから」

その言葉の裏には何かがあるのはすぐにわかった。

気になってるなら言って。でも、私の方が先よ――

恵にはそう聞こえた。

「私は大丈夫。本当に、そういうんじゃないから」
「そう。ならよかった」

美咲はコーヒーを飲み干して立ち上がった。

「じゃあ、来週のイベント、よろしくね」
「うん」

立ち去ろうとして美咲が立ち止まって振り返った。

「あ、恵」
「ん?」
「高杉さんって、年下の女の子は好きじゃないみたいよ。大人の女性が好きなんだって」
「そうなんだ」

恵が愛想笑いを浮かべる。
美咲はそう言って、笑顔で去っていった。
恵は1人、テーブルに残された。
冷めたコーヒーを見つめる。
恵の胸が、ざわざわと波立った。

(私は……どうなんだろう)

高杉の顔が頭に浮かぶ。
冷たい目で恵を見た、あの高杉。
でもTさんとしての優しいメッセージ。

『大丈夫ですよ。無理しなくていいです。Iさんのペースで』