婚活アプリで出会った人が運命の人だった

向かったのは恵でも知っている高級レストランだった。
個室に通された恵は、ソワソワしていた。
高杉が恵を見てクスッと笑う。

「何ですか?」
「いや、この前の堂々とした感じとギャップがあって」

恵の顔が赤くなる。

「乾杯しましょうか」

高杉が赤ワインの入ったグラスを傾けた。
恵は慌ててグラスを持つ。

「乾杯」

グラスが触れ合う音が妙に恵の耳に響いた。。
高杉は赤ワインを見ながら恵を見つめている。
恵は目を反らし、ワインを一気に流し込んだ。

「ところで」

高杉がグラスを置いた。

「さっき、柱の陰に隠れてましたよね」

恵の動きが止まる。

「あ、いえ、あの……」
「もしかして人待ちでした?」

高杉が首を傾げる。

「そ、そうです! 友達を待ってたんです」

恵が慌てて答えた。

「そうなんですか。じゃあ、お友達はどうしたんです?」
「仕事で来れなくなって……」
「奇遇ですね。僕もです。まあ、僕の場合はすっぽかされましたけど」

恵は申し訳なさでうつむいた。
高杉が笑う。

「ドタキャンされた同士、もう1度、乾杯します?」

そう言って高杉が恵のグラスに赤ワインをついだ。
ワイングラスを見ながら恵は少しだけホッとした。

(私がIだって気づいてない……のかな?)

恵はだったらイベントスタッフの1人として向き合おうと決めた。

「この前は失礼しました」
「え? 何がですか?」
「イベント会場での件です。あれはお客様の前だったので、ああするしかなかったんです」
「でも、その後も私に注意しましたよn。別室で」
「確かにそうですね。まあ、美咲さんから、あなたがもう来ないと聞いたので」

高杉が言い訳するように言った。

(美咲さん……って下の名前で呼ぶんだ)

なんだか心に少しだけ靄がかかった。

「僕もあの時は冷静じゃなかった。後から考えたらあなたの言ったことは間違ってない」
「え?」
「新婦の気持ちを考える。それは大切なことです」

高杉が真剣な表情で言う。

「僕の立場上、あの場では宮之上様の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。でも新婦も宮之上家に入りますから大事ですよね」
「……」
「ビジネスですから」

高杉がワインを飲んだ。
恵は複雑な表情で高杉を見た。

「私も人様のイベントで勝手なことをして申し訳ございません」

高杉がじっと恵を見た。
恵の頬がワインのせいなのか、違うなにかのせいなのか、熱くなっていくのがわかった。

「婚活アプリとかやってます?」

高杉が突然尋ねた。
恵はむせそうになった。

「え、なんで急に」
「いや、さっき待ち合わせしてたって言ってたから。もしかして婚活かなと思って」
「あ、いえ、違います! 普通の友達です」

恵が必死に否定する。

「そうなんですか。実は僕、婚活アプリやってるんですよ」

高杉がさらりと言った。
恵の心臓が跳ね上がる。

「え?」
「仕事の一環なんですけどね」
「仕事……ですか?」
「ビジネスで婚活アプリを始めたんです」

高杉が説明し始めた。

「うちは色んなジャンルの仕事を依頼される。その中でも最近は結婚や出会いに関連するものが増えてきた。それで人と人とをつないで世の中に貢献できるんではないかって思うんです」

恵は黙って聞いていた。

「イベントの計画って作り手の自己満になってしまうことがあるんです。もっと顧客のニーズに応えてみたい。人の人生の一部から時間をもらっているんだから」

高杉の目が輝いていた。

「まずはその一つとして婚活に焦点を当てた」

恵は高杉を見つめた。

(この人……Tさんと同じことを言ってる)

「でも、婚活をビジネスにするってなんか嫌です」

恵が正直に言った。
高杉が興味深そうに恵を見る。

「じゃあ、あなたはなんで婚活アプリを使用してるの?」
「え? 私、使ってないって」
「あ、ごめんなさい。使ってたらの話です」

高杉が笑った。
恵は内心ドキドキしながら、グラスに手を伸ばした。

(気づいてない……よね?)

ウェイターが料理を運んできた。

「さぁ、食べましょう」

その後の食事はまったく味がしなかった。