婚活アプリで出会った人が運命の人だった

新宿駅新南口。
改札前は通勤客で混雑していた。
恵はスマートフォンと周りを交互に見ながら、柱の陰に隠れていた。

「スーツにグレーのネクタイ、明るい茶色の鞄……」

スマートフォンに書かれた特徴を確認する。
視線を上げると、条件に合う男性の後ろ姿が見えた。
スーツ。明るい茶色の鞄。
恵は柱の陰から、そうっと覗いた。
男性が振り返る。
恵は息を呑んだ。

「本物……だった」

高杉直仁だった。
高杉はスマートフォンを持ったまま、誰かを探すように辺りを見回している。
恵は慌てて柱の陰に隠れた。
心臓が激しく鳴っている。
そうっと顔を出して高杉を見る。
高杉と目が合いそうになり、恵は再び柱の陰に隠れた。
深呼吸をする。

(どうしよう……)

スマートフォンがブルッと震えた。
恵はびくっとして、握っているスマートフォンを見る。

『着きました?』

高杉からのメッセージだった。

「どうしよう」

恵は柱に背中を押し付けたまま、動けなくなった。
30分くらい経っただろうか。
改札の方を見ると、高杉がスマートフォンを見つめている。
やがて高杉はため息をついた。
少し寂しそうな表情。
恵は遠くから高杉を見つめた。
高杉がその場から歩き出す。
恵は柱に隠れた。
高杉の足音が遠ざかっていく。
恵は柱に寄りかかり、目を閉じた。

「こんなところで何してるんですか?」

突然、声がした。
恵は驚いて目を開けると高杉が、恵の前に立っていた。

「え?」

恵は驚いて声が出ない。

「あなたこそ何をしてるんですか?」

ようやく言葉を絞り出した。

「僕は待ち合わせです」

高杉が冷静に答える。

「そうですか、では失礼します」

恵は立ち去ろうとした。

「でも」

高杉の声が恵を引き止めた。

「どうやら、来ないみたいだ」

高杉が小さく笑った。

「あ、そうですか」

恵は動揺を隠せない。

「よかったら飲みに行きません?」
「は?」
「行きましょう。お店は予約してありますので」

高杉が自然に言った。

「いや、私は」
「暇でしょ?」

高杉が恵をじっと見た。

「暇じゃないですけど。あなたが暇になったんでしょ、女性にすっぽかされて」

恵が言い返す。

「おや、女性って言いました?」

高杉が少し楽しそうに言った。

「あ、いや。あなたが待ち合わせって女性かなと」
「では傷心の僕を慰めると思って。奢りますから」
「傷心してるようには見えませんよ」

恵がじっと高杉を見た。

「見えませんか? 僕はすっぽかされて深く傷ついてます」

高杉が大げさに言う。

「傷ですか……」

恵は半信半疑だった。

「さぁ、行きましょう」

高杉が歩き出す。
恵は仕方なく後ろからついていくことにした。
少し罪悪感があったからだ。