妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 私は困惑した。
 扉も閉まっており、開けた形跡がない。音もなくどうやってこの部屋から出たのだろうか……と首を捻っていると、ノックの音が聞こえる。
 扉から入ってきたのは、品のある婦人――目が覚めた時に世話をしてくれた女性とアダン様だ。ちなみに女性はイルゼさんというお名前らしく、起きる前も後もお世話をしてくださった方だとアダン様が教えてくれた。

「ありがとうございます」

 感謝の気持ちを込めて頭を下げた途端……私のお腹が大きな音を立てて鳴った。音はきっとアダン様やイルゼさんにも聞こえているはずだ。恥ずかしさから何も言えずに固まっていると、イルゼさんがアダン様に声をかけた。

「あら、アダン様。お腹が空いていらっしゃるのですか?」
「……ああ」

 最初、イルゼさんは私を気遣って下さったのかと思ったのだが……本気でアダン様に聞いているところを見ると、どうやら私のお腹であることに気づいていないらしい。
 むしろアダン様が私を庇ってくれているのではないかと思う。イルゼさんは笑い声を挙げた後、部屋の外に置いてあったワゴンを運び入れる。そこには軽食やお菓子などがたくさん乗っていた。

「アダン様、沢山ご用意しておりますので食べても良いですけれど、ちゃんとエーヴァちゃんにも残しておいてくださいね?」
「勿論だ」

 彼の言葉にイルゼさんは微笑む。
 その後、テキパキとテーブルへ軽食を並べ終えると、イルゼさんは「ごゆっくり」と言って部屋を去っていく。扉の閉まる音がすると、室内を静寂が支配する。話しかけるべきかどうか……内心悩んでいると、アダン様がこちらを向いた。

「……動けるだろうか」