妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 軽快な声で話すセファーさんに気圧されながらも、私はひとつ気になったことを訊ねてみた。

「あの、何故私の名をご存じで……?」
「ん? そんな細かいことは気にしなぁ〜い!」

 ニコニコと笑うセファーさんに、私は了承の意を込めてぎこちなく頷く。その間に彼は魔術を使用しながら、空中で水差しと同じように透明で煌めくカップに水を入れていた。

 そしてそのカップはそのまま私の手元へとゆっくり収まる。セファーさんがティーカップを口付けるのに釣られて、私も水を少し含んだ。
 今まで飲んだことのないほどの冷たさだった。驚きからすぐに含んだ水を呑み込む。水が喉の奥を滑っていく感覚が、改めて自分の生を実感させる。

 それが緊張を紛らわせたのか、私が小さく息をはいた時。

「まだまだ気を張ってるねぇ〜。まあ、今までのことがあるから仕方ないかぁ……」

 微笑んでいるセファーさんだが、その笑顔の裏で何を考えているのだろうか。表情から読むことができない。そして理由は分からないけれど、彼は私の生い立ちを知っているのだろう。言葉の節々からそれを感じる。
 考え込む姿を取るセファーさんをじっと見つめていると、私の視線を察したらしい彼は右手をひらひらと振りながら告げた。

「ああ、ひとつ言っておくとさ、この国の人たちは君を虐げる事なんてしないから安心して〜。女神デューデ様のお墨付きだよぉ。一番顔が怖いのはアダンかな。けど彼も言葉は足りないけど、意外と世話焼きだから大丈夫」

 彼の言葉にゆっくりと頭を縦に振る。すると、私が言葉を受け取ったことを理解したらしい彼は、安堵のため息をついた。

「あー良かった。女神デューデ様も君の境遇には心を痛めていてさぁ〜。この街でゆっくり傷を癒してね、って伝えて欲しいって言われたからここに来たんだよ〜」
「デューデ様が、ですか?」

 私はセファーさんの言葉に目をパチクリさせた。彼は教皇猊下のように、女神様から神託を受けることができるのかもしれない。
 驚きを隠せない私に、セファーさんは笑って言った。

「そう。ここは女神デューデ様の加護がある国だからね。地上に比べたら、デューデ様の神託は降りやすいんだよね……あ、そうだ。もうひとつ頼まれていたことがあったんだっけ」

 セファーさんは懐から何かを取り出した。青系の色が集まったまだら模様の球体。彼はそれを左手に持つと、私の手のひらの上へと乗せた。
 その後動かないようにと人差し指と中指で球体を押さえてから、彼は私に聞こえない声で呟く。

 すると、手のひらへと置いた球が淡い水色に光り出す。そして何かが私の中に入ってきたような気がした。顔を上げると、セファーさんは微笑みながら片方の瞳を細める。
 彼の行動が理解できず、私は頭に疑問符を浮かべながら訊ねた。
 
「今のは……?」
「気にしない、気にしない! じゃあエーヴァちゃん、この国を楽しんでねぇ〜」

 手を振るセファーさんに釣られて、私も手を振った後、無意識に瞬きをした。そして次に目を開けた時には、すでに彼はいなくなっていた。