マーガレット

「自分の身を守れないといつか死ぬぞ」

「すみません。助かりました」

 至近距離の陛下は女である自分よりもいい香りがする。

「今死なれたら困るからな。それで? アレはどうする」

 腕を離してくださった陛下はクマのぬいぐるみをどうするか尋ねられたけど、実際あれをぶち壊すのは簡単。むしろそっちの方が私としてもやりやすい。
 でも殿下がこれを気に入っている以上、それをぶち壊すのはさすがに気が引ける。

「あの目だけをどうにかしようと思っています。原因はクマではなくあの目なので」

「全く同じ物を作らせることもできるが」

「長年傍に居続けた子が突然新しくなったら違和感を覚えますし、これが原因だったと知った時悲しいと思うので。それに十年間も殿下を支えてくれた子を見殺しにはできませんよ」

 空間収納から杖を取り出し、枕元にあるクマに再度近寄る。
 綺麗に整えられたベッドからはほんのり陛下と同じ香りがした。

「陛下。これから先のことは教会に黙っていてくれませんか? そして呪いに気づけたのも偶然だったと報告していただけないでしょうか?」

「理由は」

「……これです。この方法でしか呪いを完璧に取り除けないので」

 本当は誰にも打ち明けるつもりはなかったけど殿下の為に左手の白い手袋を外し、手の甲を陛下に見せる。

 精霊と契約したら左の手の甲に模様が浮かび、契約者の証が刻まれる。聖女の研修前に手の甲を見せるよう言われるが、その日は必死に化粧で誤魔化したからこの事は誰も知らない。

「なるほどな。呪いを一発で見抜けたのも詳しいのもソレのおかげだったと言うわけか。して誰と契約している」

 精霊は中級から契約でき、上級はたった四体しか存在しない上に言葉を話し人の姿をしている。

 そしてそのすべての精霊の長が精霊王。すべての力を使えるが人嫌いで有名だと本には書いてあった。とても強力な力を持っている為、契約者を見つけたら教会が何が何でも自分たちのモノにしようとするとも。

「ヴァル……。四大精霊の更に上、精霊の長です」

「ははっ。――ははははっ! まさかこんな小娘が精霊王と契約をするだなんて。いくつの時だ」

「五歳です」

「くくくっ。冗談だろ。あれだけ教会が血眼になって探していた者が、まさか教会が選んだ聖女だなんて」

 どこのツボに入ったのか陛下はしばらく大声で笑っていた。

『笑い過ぎだ馬鹿者。私のマーガレットを侮辱しているのか?』

 そんな陛下の前に突然現れたのは、呼び出してもいない上に不機嫌を隠そうともしない精霊王ヴァルだった。