地獄で私と二人きり

 俺の恋人である、リタこと理沙は自慢の恋人だ。

 優しくて、愛らしくて、美しくて、綺麗で、強くて、儚い。

 俺が勇者となる前、年上や同年代に虐められていた。

 女達も群がるこの目立つ容姿が、気に入らなかったんだろう。

 シスターに相談したけど、俺は来たばかりだからと、俺の発言は信じてもらえなかった。

 俺の親は、魔獣に殺された。

 俺は、「親を見捨てた最低な子」として噂が広がった。

 違う、けれどどこかで、自分でもそう思っていた。

 俺があの時、家族と一緒に死ななかったせいだと思いながら過ごしていた。

 リタが来てから、俺の隣にはいつもリタがいた。

 俺がリタから逃げるように走っても、追いかけてきて、でもすぐ転んで…けれど、すぐに立ってもう一度俺を追いかける。

 前に、リタに聞いたことがあった。

 何でそこまでして、俺の隣にいようとするのか。

 …俺を初めてみた時の、キラキラした笑顔は何なのか。

「私のぱぱとままもね、魔獣さんに食べられちゃったの。だけど、私には生きてーって、幸せになってーって言ったの!だから、それを叶えたいの!」

 俺は心底驚いたんだ。

 俺と同じ境遇のはずなのに、俺みたいにひねくれずに、親の最後の言葉を覚えて、叶えるために笑う目の前の小さな女の子に。

 そして、続いて尋ねた。

 それでなぜ、俺を追いかけてまで、隣にいる理由を。

「死んじゃったらね、お空に行くの。あなたのおめめは、お空みたいなの!あなたの髪の色は、お日様みたいなの!あなたの隣にいると、ぱぱとままのそばにいるみたいな気持ちになるんだよ?」

 ニコニコしながら答えるリタ。

 俺の容姿を、「派手」としか思っていない男達でもなく、
俺の容姿を、「ブランド」としか見ていない女達でもない、
キラキラした目で「俺」を見つめるリタに惚れた。

 俺がいじめられているとき、震えた体でかばってくれた。

 俺が辛いとき、何も言わずに俺の隣にいてくれた。

 俺の弱いところを、つつみ込んでくれた。

 …俺を恋人として、愛してくれた。

 俺が勇者になったとき、周りの目は変わった。

 でも、リタは変わらなくて、変わらず笑ってくれた。

 俺は、リタに守ってもらった。助けてもらった。

 けれどリタは、自分が辛いとき、頼ってくれない。

 リタは強いよ。でも俺は、リタを守れる男になりたい。

 勇者になって世界を守って、リタと幸せに暮らす。 

 行く前に、リタが指輪をくれた。

 リタと俺の手に光る、お揃いの指輪。

 …次は、俺からリタに結婚指輪を贈りたい。

 リタが、弱い俺を強くしてくれた。

 その恩を、返したい。

 そう、思っていたのに…

 リタは殺された。王家は、リタを邪魔だと思ったんだ。

 リタ以外いらない、リタがいない世界に、何の魅力も感じない。

 けれど、このまま死ぬ訳にもいかない。

 リタ以外と結婚なんてするはずもないけど、王家をこのままにして死ねる程、俺は優しくない。

 俺は、リタを殺したことにかかわった者を、手当たり次第殺して回った。

 全てが終わり、リタと過ごした孤児院にある花畑へ行った。

 そこにはもう、花畑がなく、俺の知っていた孤児院ではなくなっていた。

 唯一見覚えがあるものといば、リタが植えていた1輪の紅いバラだけ。

 あぁ、本当に綺麗だ。

 リタが愛し、慈しんだ花達は、のびのびと、美しい花となる。

 …リタに、会いたい。

 リタに、大好きだと言いたい。

 リタに、愛していると伝えたい。

 リタと、家族になりたい…

 リタを殺した奴らへの憎しみは、殺してもなお残り、

 リタに会えない悲しみは、どんどん深くなっていく。

「リタ、愛している」

 リタは、天使になるだろう。

 あんなに優しくて、綺麗なのだから。

 けれど俺は、人を殺した汚れた勇者。

 天使に恋焦がれることは、いけないことで、叶わなくても、リタだけを、思わせてくれ。

 最後の淡い思いを抱え、俺は剣を腹に差した。