カラフルハート

「七瀬、大ニュース!!私ね、お試しだけど谷中くんと付き合うことになったよ!!」

電話の相手は七瀬。

今日の出来事を報告している真っ最中。

「へぇー・・・って、えー?!ていうかお試しって何?!」

「谷中くんがお試しで付き合ってみませんかって言うから付き合うことにしたの」

「そんなにあっさり決めてよかったの?」

よかったの。

何故ならば。

「付き合ったことないしいいかなって」

「あんなに返事するの迷ってたのに・・・」

「まぁね」

「で?純一くんには報告は?」

「してないよ?なんで?」

「なんでって・・・幼馴染でしょ?!」

「そうだけど・・・」

「今すぐ報告しなさい」

「言いにくいよ〜」

嘘だってバカにされそうだし・・・。

「そう?よかったじゃんって喜んでくれそうな気するよ?」

「何?七瀬、純一の味方するの?」

「味方って・・・そういう訳じゃなくて・・・幼馴染だし喜んでくれるんじゃない?ってこと。それに・・・」

なぁんだ。

てっきり純一の味方したかと思った。

味方じゃないならよかった。

てかそれに・・・って何?

「どうしたの?」

「なんでもない」

「そっか。わかった、報告する」

そうして私は純一に報告・・・

・・・していない

だぁて〜宿題が・・・。

なんて言い訳も無駄で、七瀬に「しなさいって言ったじゃん!!!」って怒られた。

なんでそんなに怒られたのか知らなかったけど、後々私は純一の思いに気付かされ怒られた意味が・・・わかるようでわからない。

大切にされてるんだからちゃんとしなさいってことだろうけど・・・。

純一だからしなくて良くない?

たぶんこれ言ったら七瀬にまた怒られるけど。





「華凛、お前、彼氏できたんだって?」

そう純一が話しかけてきたのはその日の帰り道での事。

「仮だけどね・・・」

「へぇー。よかったじゃん」

あれ?いつもより馬鹿にされない・・・。
念の為確認。

「へぇーって・・・。馬鹿にしてないよね?」

「なんで馬鹿にしたことになってんだよ・・・」

「してないよね?って確認しただけじゃん・・・。しないでなんて言ってないのに・・・」

「・・・ごめん」

「・・・純一が謝った・・・。純一に初めて口喧嘩(?)に勝った〜!!きっと明日は雪だね!!」

「今、春だろ・・・」

「だからだよ!!珍しいことがあったら異常気象?になる?みたいなこと言うでしょ?!」

「そんなん信じるとか子どもみたい・・・」

「だって子どもだもん!!!」

「16歳の言う言葉として信じらんないって言ってんだよ」

むぅ〜!!酷い!!

「そんなこと言ってたら叩くよ?!」

「叩けもんならやってみろ」

純一の顔には笑みが浮かんでいる。

できないと思ってるなぁ〜!!こいつ〜!!

ということで。

バシッ!

軽く純一の頭を叩いた。

思いっ切りしなかったのは彼氏ができたって言っても馬鹿にしなかったお礼のつもり。

「明日は嵐になるな」

叩かれたくせに微笑んで純一が呟く。

「なんで?」

「華凛が思いっ切り叩かなかったから」

・・・・・。
こいつ・・・人の優しさを何だと思っんのよ?!

まぁいいか。

「馬鹿にせずにいてくれたサービス」

私はこれを言わなければよかったと後々後悔することになる。

「サービスなら別のがいいな」

この時は頭に???が浮かんだ。

「じゃあ何がいい?」

「・・・・・」

金魚みたいに口をパクパクさせる純一。

もう!!さっさといいなよ!!

「仮で付き合ってる奴と別れて」

なるほど〜!!それは言いにくいよね!!
口パクパクさせちゃう訳だ〜。

・・・ん?

「今・・・なんて?」

驚かせるにも程があるでしょうよ!!

てかなんで純一にそんなこと言われなきゃいけないの?

意味不明すぎる。

「今付き合ってる奴と別れてって言ってんの」

「なんで・・・そんなこと・・・」

「華凛が好きだからじゃん」

「え・・・?」

純一が好き?

誰って言った?

私って聞こえたけど聞き間違い?

なんで?

どこを?

・・・あっ!!友達って意味でか!!

「友達って意味じゃねぇからな。お前絶対友達の意味でって解釈しようとしてただろ」

少し睨まれながら図星を指された。

と同時に。

唯一の希望が打ち砕かれた。

だって私、純一のことそんな風に考えたことなかったもん。

そんなこと知ったら純一、きっと悲しむし・・・。

「少しはこれで俺の事意識するだろ。いつも俺の事友達としか見てないんだから」

「バレてた・・・」

「毎日いれば考えなくてもわかるよ」

なんか・・・流石だね・・・。

ん?待てよ・・・?

「じゃあなんで今告るの?!友達としてしか見てないの分かってたんならしなくたっていいじゃん!!振られるの目に見えるよね?!それに一応、私彼氏いるんだから!!」

少しは応援してくれてもいいじゃん!!

私、怒りのピークに達しております。

そしてサービスって言ったこと大後悔です。

「そんなの分かってるよ!!振られるのだって彼氏いるのも分かってるけど・・・。けど他の男と付き合ってる好きな子を黙って見ときたくないし、それに今はまだ素直に応援できないくらいに本気だから、少しでも振り向いてほしくて想い伝えたんだよ!!少しは好きになった方の気持ちも考えろ!!」

思わずお互い熱くなった口調にハッとする。

こんなに純一が、声荒らげるなんて。

初めてだな。

きっと、今まで私の事たくさん考えて、堪えたりしてくれてたのかな。

・・・そっか。好きになってくれた人のことをちゃんと考えるのも1つの恋愛かもしれない・・・。

「ごめん。ちゃんと考えれてなかった。返事に時間くれる?」

「うん。待ってる」

その日は重々しい空気の中一緒に帰宅したのだった。




その夜。

私はまた七瀬に相談することにした。

「谷中くんの次は純一くんかぁ〜。モテる女は、辛そうだね。どっちもイケメンで捨てがたいねぇ〜」

「からかわないでよ、七瀬〜。こっちは大変なんだよ?」

「ごめん、ごめん」

「どうしたらいいと思う?」

「華凛はどうしたいの?」

私は・・・・・。

「純一には色々お世話になってるから協力したいけど・・・谷中くんと別れてって言われたら・・・」

「協力しにくいんだね?」

「うん」

谷中くんとは仮でとはいえ、付き合ってるわけだから「友達が別れてって言ってるから別れる」なんて言えない。

だからって純一のことを断ると失礼にも程がある気が・・・。

だって自分からお願い聞くって言ったのにやっぱり無理って・・・。

うん。なんか失礼な気がする。

そういう私は優柔不断なのだろうか・・・。

「とりあえず、谷中くんを嫌いになるまで付き合ってみる」

「決めたことはやり通す、華凛らしい決断だね」

七瀬はそうやっていつも私の背中を押してくれる。

味方してくれたり、本気で怒ってくれたり、一緒に泣いてくれたり。

そういうところも大好きだ。

そう改めて思えた相談だった。




次の日の昼休み。

「谷中くんを嫌いになるまで付き合っていいかな?今は谷中くんの事を考えるのでいっぱいだから純一はもう少し後で考えたい」

我ながら最低だな・・・。

けど私にできることってこれくらいしかなくて・・・。

人生で初めて人を振っています。

「いいけど・・・そいつのこと嫌いになれんの?」

うっ・・・。

それは・・・努力する訳じゃないからわかんないけど・・・

「もし谷中くんのこと嫌いになったら、真剣に考えるから待っててほしいです・・・」

「分かった。じゃあそいつのこと嫌いになったらもう1回ちゃんと言うから教えてくれる?」

「分かった」

今回は純一の優しさに甘えてしまった。

そんな私の心は青色に染まるのでした。