君が、となりにいるだけで

連れ戻された病院の病室は、以前とは別の部屋だった。

窓には鍵がかけられ、重いドアは外からでなければ開かない。

いわゆる「保護室」に近い、管理の行き届いた個室。

「……やりすぎだよ、先生」

ベッドに横たわり、力なく呟いた柚に、蓮は一瞥もくれずに新しい点滴の準備を進める。

彼の動きには一切の迷いがない。

雨に濡れた髪が額に張り付いたままの彼は、いつにも増して冷酷な彫刻のように見えた。

「……勝手に逃げ出した罰だ。お前が自分の命を管理できない以上、俺がすべてを管理する」

「……あんな施設と、やってること変わらないじゃない」

その言葉に、蓮の手が止まった。

彼はゆっくりと柚の顔を覗き込み、細い顎を強引に指先で持ち上げる。

その瞳には、深い怒りと、それを上回るほどの「歪んだ執着」が渦巻いていた。

「あいつらと一緒にされるのは心外だな。……俺は、お前を生かそうとしている」

「……頼んでない。……死んだ方が、ずっとマシだった」

「……二度とその口を叩くな」

蓮の声が、低く地を這うように響いた。

彼はそのまま、柚の左手首にそっと指を滑らせる。

そこには、無理やり引き抜いた点滴の痕が、無惨な痣となって残っていた。

「……痛いか」

「………………」

「痛いなら、忘れるな。……俺に逆らえば、お前が傷つく。……それが嫌なら、大人しく俺の言うことだけを聞いていろ」

蓮はそう言い残すと、病室の明かりを消し、冷たい音を立ててドアを閉めた。

カチリ、という施錠の音が、静かな廊下に響き渡る。

暗闇の中、柚は一人で震えていた。