その夜、柚は一生の不覚を犯した。
蓮からもらったチョコレート。
その銀色の包み紙を、捨てるタイミングを逃し、カバンの奥のポケットに入れっぱなしにしてしまったのだ。
「……おい、柚。これは何だ」
就寝前の点呼の際、不機嫌な足音とともに職員の男が部屋に踏み込んできた。
その手には、くしゃくしゃになったあの銀紙が握られていた。
「……っ! それは……」
「どこで手に入れた。こんな高級そうなもの、お前の小遣いで買えるはずがない。……万引きか? それとも、色目でも使って誰かに買わせたか?」
「違います! それは、その……」
「黙れ!」
激しい衝撃とともに、柚の体は床に叩きつけられた。
「隠し事をするなと言っただろう。お前が勝手なことをすれば、この施設の評判に傷がつくんだ」
職員は柚のカバンを逆さまにし、中身をぶちまけた。
教科書、ノート、そして——隠していた新しい吸入器が、乾いた音を立てて転がった。
「……なんだ、この薬は。病院の診察代以外に、こんなものまでくすねてきたのか。生意気なんだよ、お前は」
職員が吸入器を拾い上げ、窓の外へ放り投げようとした。
「やめて! それがないと、私……!」
柚が必死に縋り付くと、職員は冷笑しながら彼女を蹴り飛ばした。
吸入器は夜の闇の中、庭のどこかへ消えていった。
「明日は一日、反省室だ。一歩も出るなよ」
バタン、と音を立てて扉が閉まり、外から鍵がかけられる。
真っ暗な部屋の中、柚は冷たい床の上で丸まった。
肺が、恐怖と寒さでヒリヒリと鳴り始める。
薬はない。
助けてくれる友達も、ここにはいない。
(……苦しい。……だれか……)
蓮からもらったチョコレート。
その銀色の包み紙を、捨てるタイミングを逃し、カバンの奥のポケットに入れっぱなしにしてしまったのだ。
「……おい、柚。これは何だ」
就寝前の点呼の際、不機嫌な足音とともに職員の男が部屋に踏み込んできた。
その手には、くしゃくしゃになったあの銀紙が握られていた。
「……っ! それは……」
「どこで手に入れた。こんな高級そうなもの、お前の小遣いで買えるはずがない。……万引きか? それとも、色目でも使って誰かに買わせたか?」
「違います! それは、その……」
「黙れ!」
激しい衝撃とともに、柚の体は床に叩きつけられた。
「隠し事をするなと言っただろう。お前が勝手なことをすれば、この施設の評判に傷がつくんだ」
職員は柚のカバンを逆さまにし、中身をぶちまけた。
教科書、ノート、そして——隠していた新しい吸入器が、乾いた音を立てて転がった。
「……なんだ、この薬は。病院の診察代以外に、こんなものまでくすねてきたのか。生意気なんだよ、お前は」
職員が吸入器を拾い上げ、窓の外へ放り投げようとした。
「やめて! それがないと、私……!」
柚が必死に縋り付くと、職員は冷笑しながら彼女を蹴り飛ばした。
吸入器は夜の闇の中、庭のどこかへ消えていった。
「明日は一日、反省室だ。一歩も出るなよ」
バタン、と音を立てて扉が閉まり、外から鍵がかけられる。
真っ暗な部屋の中、柚は冷たい床の上で丸まった。
肺が、恐怖と寒さでヒリヒリと鳴り始める。
薬はない。
助けてくれる友達も、ここにはいない。
(……苦しい。……だれか……)
