身代わり令嬢の、おしごと。

車は、花の知らない街へ向かって走った。

大きな門。
高い塀。
現実味のない建物。

「ここからが、あなたの“おしごと”よ」


麗奈の声が、静かに響く。

扉の向こうには、広い部屋と、並んで立つ大人たち。
メイド服の女性。背筋を伸ばした男性。

「本日から、特訓を始めます」

淡々と告げられ、花は思わず息をのんだ。

歩き方。
言葉遣い。
姿勢。

すべてが、今までの自分と正反対だった。

「……できますか、私に」

小さく漏らすと、麗奈は花を見た。

「できるわ」

その瞳は、迷いがなかった。
花は、拳を握りしめる。

一か月後の自分を、想像できないまま。
それでも――前に進むしかなかった。

こうして花は、
“令嬢・麗奈”になる準備を始めた。