身代わり令嬢の、おしごと。

翌日、花は指定された場所に立っていた。
昨日と同じ黒い車。
近づくだけで、心臓が早鐘を打つ。
ドアが開き、麗奈が顔を出した。

「来てくれたのね」

その一言で、もう逃げられないと悟る。
花は、深く息を吸った。

「……やります」

声は小さかったけれど、はっきりしていた。

「身代わりの仕事、引き受けます」

麗奈は一瞬、目を見開き――

それから、安堵したように微笑んだ。

「ありがとう。あなたなら、きっと大丈夫」

その言葉に、なぜか胸がざわつく。

「ただし」

花は、続けた。

「約束してください。
終わったら、全部終わりにするって」

「ええ」

麗奈は、真剣な表情でうなずいた。

「必ず、元の生活に戻してあげる」

車のドアが閉まる。
花の決断と一緒に、
普通の日常も、静かに閉じ込められた。