身代わり令嬢の、おしごと。

扉を閉めた瞬間、花は小さく息を吐いた。

(……気づかれた?)

そんなはずない。
そう言い聞かせても、
胸のざわめきは消えない。

廊下を歩きながら、
背筋を伸ばす。
令嬢らしく。

何度も繰り返した所作を、頭の中でなぞる。

――私は、麗奈。
一ヶ月だけの、身代わり。

それなのに。

柊の視線が、なぜか頭から離れなかった。

探るようで、
拒むようで、
それでもどこか、静かだった目。

(余計なこと、考えない)

花は唇を引き結び、
足を止めずに進む。
これは仕事。
それ以上でも、それ以下でもない。

……そう思おうとするほど、
胸の奥が、少しだけ苦しくなった。