身代わり令嬢の、おしごと。

柊は、書類に視線を落としたまま言った。

「……紅茶、変えたのか」

問いというより、独り言に近い声音だった。

「いえ」

麗奈は一拍置いてから、静かに首を振る。

「いつもと同じ茶葉です」

即答。
けれど、ほんのわずかな間。
柊は、その“間”が気になった。

「そうか」

それ以上は追及せず、ペンを走らせる。
カリ、と乾いた音が部屋に響く。

……やはり、甘い。

舌に残るのは、砂糖ではない。

ふと顔を上げた瞬間、
視線が、ぶつかった。
麗奈は俯いていると思っていた。
だが、こちらを見ていた。
その瞳が、微かに揺れる。

「……下がっていい」

柊の言葉に、
麗奈は一礼し、踵を返す。
扉が閉まる音がしても、
柊はしばらく、その席を見つめていた。
胸の奥に残る、
名もない感覚。

それが“違和感”ではなく、
別の何かだと気づくのは、
もう少し先のことだった。