身代わり令嬢の、おしごと。

柊は、書類から視線を上げた。
紅茶の湯気が、ゆらりと立ちのぼっている。
いつもと同じ香り。

――のはずだった。

(……少し、甘い?)

理由はわからない。
けれど、以前より落ち着く匂いだと感じた。

向かいに立つ麗奈――

いや、“麗奈”は、静かに手を揃えている。
その姿を見て、ふと違和感がよぎった。

以前は、
こんなふうに待たなかった。
言われる前に去り、
感情を見せることもなかった。

「……何か?」

声をかけられ、柊は我に返る。

「いや」

短く答え、再び書類に目を落とす。
考えすぎだ。

人は、少しずつ変わる。
そう結論づけながらも、
胸の奥に小さな引っかかりが残った。

その違和感が、
後に自分の心を揺らすとも知らずに。