身代わり令嬢の、おしごと。

「……紅茶です」

花は、いつもより少し緊張しながらカップを差し出した。

「置いて」

低い声。
テーブルの向こうに立つ男は、視線も上げない。
スーツ姿。無駄のない所作。

――柊。

以前から、何度も顔を合わせているはずの相手。
それなのに、空気はいつも冷たい。
花は言われた通り、静かにカップを置いた。

「……今日は、ミルクを?」

思いきってそう聞くと、
柊の手が、わずかに止まった。

「そんなこと、今まで聞かなかったな」

淡々とした声。
責めているわけではないのに、胸が詰まる。

「……失礼しました」

花は、視線を落とした。

「いい」

短く答え、柊はようやく彼女を見る。

その目に浮かんだのは、
ほんの一瞬の――違和感。

「……変わったな、君は」

花の心臓が、大きく跳ねた。