SPY GIRLS

「スイ先輩!おっはよーございますっ!」

「ユイハ、先輩はやめなって何度言ったら分かってくれるの」

「あっはは。(すい)、今日も結羽(ゆいは)に愛されてるぅ〜」

私の名前は桜霞(さくらがすみ)(しょう)

生まれついてのエリートスパイで、今は桜花(おうか) 翠という名前で、ここ、北里(ほくり)高校に潜入調査中。

新人スパイで私の弟子、花祭(はなまつり) 結羽(ゆう)〔今は花町(はなまち)結羽(ゆいは)〕と共同任務にあたっているんだけど……。

ユイハは、いつもスパイ学校や訓練の時と同じように、スイ先輩と言ってくる。

13歳で、年齢や経歴の差があるから当然か……。

高校の転入試験を受けるときの書類を偽造するのが超手間だった。

上官に15歳以上の人材と交代するように掛け合ってみたが……。

「〈花結(はなゆい)〉ね〜。あの子は貴女の弟子でしょう。1人前になるまで守りながら、任務は基本共同だよ〜。貴女の腕の見せどころだねっ。楽しみにしてるよ〜」だって。

ふざけんじゃないわ。

書類くらい作ってくれたって!いいだろーっっ!!

いつ年齢がバレるか分からない恐怖……。

「スーイ先輩っ。みて、おじゃまむしぃ〜」

「はいはい……」

幼すぎてバレてんじゃないの、このコ。

─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠

「翠、結羽(ゆいは)。また月曜日ね〜!」

「さて、ユイハ。今日も一緒に帰ろっか」

ユイハに笑顔で言う。

「ユイハ、私は怒ってる。今日、ユイハが浮かれて先生に怒られたこと。面倒なんだよ?退学にでもなったらさぁ」

ユイハと帰りながら言う。

「スイ先輩、私のこと心配してくれて……!」

「ちーがーう。任務に支障が出るのが嫌なだけ」

「うぅ、だって、しょうがないですもん。高校、分かんないことばっかり。だって私13歳!ホントは中学生1年生なのにぃ〜」

「それは分かってる。でもそれで退学になったら困るの。帰ったら復習、予習ね!」

「はぁーい」

ユイハは幼いところもあるけど、意外と教えたら覚えてくれて、頑張ったらできる子なんだよ〜。

それを勉強にも活かしてくれたらいいのになぁ。

─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠

「……だからここは、この公式を使えば」

「なるほど、分かった。分かったけど……うー、もう疲れたよースイせぇーんぱい」

時計を見ると、もう19時。

2時間くらい勉強を教えていた。

おやつ休憩を30分とったけど。

「はあ……。何したいの?」

「ごはんっ。ごはんたべたぁーい♡」

「分かった、じゃあ手伝ってね」

昨日の冷凍した米を取り出し、電子レンジで加熱する間に主菜を作る。

今日は野菜の卵とじの予定。

なんだけど……。

ユイハが冷蔵庫の前で固まっている。

「う、ユイハ……まさか……っ」

「あ、えへっ。卵、落としちゃった……っ」

へにゃっと笑うユイハと、冷蔵庫の中の割れた卵を見比べ、ため息が出る。

「はぁ……おっちょこちょいも過ぎて困るなぁ……」

(私は今回の弟子の育て方、合ってるのかな……)

生まれたときからスパイだったから、今まで3人くらい育成してきたけど、ユイハみたいなおっちょこちょいな子はいなかった。

おっちょこちょいスパイ育成模索中なんだ。

冷蔵庫の中を綺麗にして、野菜炒めを作る。

─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠

「ええ〜、ピーマン入ってるぅ……」

「文句言わないの。ユイハが卵割らなかったら味隠せたのにね」

「う、ごめんなさいってばぁ」

ユイハが珍しくシュンとしてる。

(しまった、怒りすぎたかな……)

「ユイハ、ごめ─⁠⁠─⁠「なーんちゃって。全然気にしてないでーっす」

ケロッとしているユイハにほっとしつつも、思ったことを言った。

「でもユイハ。卵割ったこと気にしないのは、だめだよ」

「うぐ……っ。はぁい……」

─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠⚝─⁠⁠─⁠

─⁠⁠─⁠スイ先輩っ、大変です!!卵が冷蔵庫からあふれちゃって……

─⁠⁠─⁠どういうこと?

そう思いながら冷蔵庫を開けると、大量の卵が波のようにあふれてくる。

─⁠⁠─⁠え、ちょっと、なにこれっ!?

卵の波から出ようとすると、目の前に男性がいた。

─⁠⁠─⁠な、なに……。っ!!

男性は右手に持っている刃物を首に当てた。

─⁠⁠─⁠サクラ、ボシィ……ッ


「─⁠⁠─⁠は……っ」

私は冷や汗をかいていた。

思わず首に手をやる。

(よかった……ちゃんと生きてる……。でも、誰なんだろう、あの人……?なんか、嫌な感じがする……)