陽歌の中に生きている茜さん。

拓巳は茜さんが陽歌の中に残した思いを知って本当に切なかったと言った。

みんな茜さんの強い気持ちに呑まれて、自分を見失っているんじゃないかとさえ思う。

陽歌は自分の中の別の女性を愛している男性と結婚して、本当に幸せなのかしら?

拓巳はそんな陽歌を結婚させたことを後悔しないのかしら?

私の心を読んだように、拓巳は私の頭にポンと手を置くと髪をクシャッとかき回して微笑んだ。

それから子どもを諭す様に、とても静かで優しい声で言った。

「晃先生は陽歌の中にいる茜さんを確かに愛してるけど、陽歌を茜さんの代わりにしているわけじゃない。
陽歌を陽歌としてちゃんと愛してくれている。
陽歌はちゃんと自分の中の茜さんを認めて心を共有している。
彼らは3人とも幸せなんだよ。
特異な形で直ぐには理解し難いかもしれないけれど、亜里沙にもいつか解るときが来るよ」

拓巳の言葉が、声が、表情までもがとても優しくて…

それが苦しいほどに愛しくて…

気がついたら、無意識に両手を伸ばして拓巳を抱きしめていた。

顔は見えなかったけれど、きっと驚いて目を見開いていたと思う。