「でも、まさか私より先に亜里沙が出産を迎えるなんて思わなかったわね」

「色々心配掛けてごめんね。
でも私だって陽歌よりも先に赤ちゃんを授かるなんて思わなかったわよ」

亜里沙が幸せそうに笑いながら、生まれたばかりの小さな命をそっと抱きしめた。

俺は二人を抱きしめるようにして亜里沙の肩を抱き、陽歌を見つめる。

多分俺もきっと幸せな顔をしていると思う。

「産後は絶対に無理しちゃダメよ。
もっと拓巳をこき使ってやらなくちゃ。
亜里沙は甘いんだから」

陽歌の言葉に思わずゾッとしたが、亜里沙を心から心配しているだけに何も言い返せなかった。

陽歌はいつも亜里沙の為に全力疾走するところがある。

亜里沙が見つかったと連絡をした時も、深夜にもかかわらず陽歌はワンコールで電話を取った。

開口一番、「子どもが出来たんだ」と報告した俺に、「誰の?」と訊かれた時には自分のテンションの高さに苦笑したが、陽歌は「真っ先に報告する事がそれってどうよ?」と呆れながらもとても喜んでくれた。

そして、朝一番の列車に飛び乗って【ヤマモトレディースクリニック】までくると、謝る亜里沙を泣きながら抱きしめて、「辛いときに傍にいてあげられなくてごめん」と言った。