信じられない表情で呆然とする亜里沙を無視して、柔らかな髪に唇を落とす。

何か言いたげに開いた唇から質問が飛び出す前に、唇を塞ぎ想いを寄せた。

柔らかい唇の感触があの夜を思い出させる。

あの日よりずっと細くなってしまった肩。

強く力を入れすぎると砕けてしまいそうな身体に改めて驚いた。

静かに唇を離して見つめ合う。

亜里沙の瞳から流れる涙は、青白い月の光が反射してあの夜よりもずっと綺麗だった。

「亜里沙、もう逃がさないぞ。
嫌だって言っても絶対離さない覚悟で迎えに来たんだ。
泣こうが喚こうがおまえに拒否権なんて与えてやらないからな。
俺と一緒に帰るんだ」

「なによそれ、横暴なんだから。バカ拓巳!
私の事は放っておいて!」

「横暴で結構。少しぐらい強硬な手を使わないと、おまえはまたどこかに逃げ出しそうだからな。
絶対に…もう逃がさないから」

「ヤダ、帰らない。拓巳のバカッ! 
鈍感なくせに強引で、横暴で、我が侭で、プライドが高くて、女ったらしで、中途半端に優しくて、思わせぶりで、自意識過剰で…。放して!」

「ウルサイ。そんな男を好きになった奴が言う台詞かよ?
いつまでも親友のままでいられると思うなよ?」

「……だったらもう構わないで。
親友でない私なんて必要ないでしょ?」