伸ばしかけた手をグッと握り締めると、想いを振り切るように走り出した。

だけど走り出した途端おなかの奥に響く鈍い痛み。

このまま走り続けたら、この子は死んでしまう。

「やめろ亜里沙。走るな」

夜の静寂を破るような拓巳の声に、ハッとする。

迷いが私の足を緩めたのとほぼ同時に、腕を強く掴まれ引き寄せられる感覚があった。



―― 行くな!



呆然としている私の耳に届いたのは切ない声。

とてもとても愛しい人の声。


拓巳…


あなたを忘れる事の出来ない私を…


どうかそっとしておいて…。