山崎さんが煙を吐き出すのとほぼ同時に、俺も溜息と共に紫煙を吐き出す。

二人分の煙が複雑に絡み合って部屋の中に満ちていくのをぼんやりと眺めながら、亜里沙の細い体が更に細くなった原因が自分にある事を痛切に感じていた。

食欲も無く倒れるほどに思いつめていたのか。


「梶さん。あなたは亜里沙さんに会う覚悟がありますか?」

覚悟があるからこそここまで来たのに、何故改めてそんな事を訊くのかと、突然の質問に戸惑った。

「あたりまえですよ。そのためにここまで彼女を迎えに来たんですから」

「彼女があなたと一緒に帰ることを拒否したら?」

グサッ!と突き刺さる鋭い言葉。それは俺が一番恐れている事だ。

だが、どんなに嫌がっても絶対に手放したりするもんか。

タバコを消し、真っ直ぐに山崎さんを見つめて心に決めてきた想いを素直に告げた。

「無理にでも連れて帰りますよ。
俺には彼女しかいない。彼女を失ったら俺は駄目になってしまう。
…失って初めてわかった。彼女を愛しているんです」

山崎さんは俺をじっと見たまま動かなかった。

紫煙がゆっくりと部屋の中を流れていくのが、この部屋を静かに過ぎる時の流れのようにみえた。

山崎さんが口を開くまでの、気の遠くなるような時間…


重くゆっくりと流れていく時間がとても長く…


永遠のように感じた。