「福沢諭吉の『学問のすゝめ』では、『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』ということが言われていて…」
社会の教科担任である梶村の話を、頬杖をつきながら右から左に聞き流すのはもはや授業中の恒例行事だ。
「意味は『人間とは生まれながらには平等であって、貴賎や上下などの差別はあってはならない』ということです。」
「ばっからし」
誰にも聞こえないようにそうつぶやくと、隣に座ってまじめにノートを取っていた新山律樹がぐるりと首を巡らせてこちらを見た。
彼の瞳は、何の温度も孕んでいない。怒りも、うれしさも驚きも何もかも。
水晶玉のような、彼の無の瞳から逃げるように視線を落として、私は意味もなく大学ノートの罫線を1本1本数える。
最後の1本を数え終わったとき、「岡倉さん、授業をきちんと聞いてください」と梶村の厳しい声が私の顔を上げさせた。
クラスメイト達の視線が一斉に私に突き刺さる。
自分の周りだけ一気に酸素が薄くなったような感覚に陥りながらも、私は何とか平静を装って「すみません」とよそ行きの声を発した。
「授業はきちんと聞くように」
毅然とした態度でそう言い放った梶村が教壇でまた話を始める。
何事もなかったと言わんばかりに授業に戻ったクラスメイト達の黒いつむじを無感情で眺める。
ポニーテールに、おろし髪。そして同じように整えられた男子の黒い頭は、後ろからだと誰が誰か、正確に判別がつかない。
そして、クラスメイト達の中身も、どこを切っても同じ断面の金太郎飴のようなものにしか思えない。
ということは、私も金太郎飴の中の1つだ。不良品としてはじかれて捨てられてしまう未来しか見えないけど。
***
「はぁ…」



