夜はまだ、元彼を思い出す

大学生になって、
俺の生活は一気に自由になった。

時間割も、出欠も、
誰にも強く縛られない。

正直、それが少し楽だった。

今までは、
結衣をいろんな場所に連れて行くことで満足してた。

自転車で遠回りして帰ったり、
意味もなく夜に外を歩いたり。

——それだけで、恋をしてる気がしてた。

でも。

初めて夜を一緒に過ごしてから、
何かが変わった。

触れたい。
近くにいたい。
離れたくない。

そう思う時間が、明らかに増えた。

気づけば、
「泊まってく?」
「今日は帰らなくていいだろ」

そんな言葉を、
自然に言うようになっていた。

俺も、結衣も、
一人暮らしだ。

夜が、二人の居場所になっていった。

大学に入ってから、
サボることも増えた。

「まあ、いいか」
そんな軽い気持ちが積み重なって、
講義より夜を選ぶようになっていた。

飲み会にも、前より顔を出すようになった。

女の子と少し話すと、
結衣がわかりやすく嫉妬する。

拗ねた顔も、
不安そうな目も、
正直、可愛いと思ってしまった。

(俺のこと、好きなんだな)

そう思える瞬間が、
少しだけ癖になっていた。

最低だって、わかってる。

でも。

どんな場所にいても、
どんな女と話していても。

頭に浮かぶのは、
結衣だけだった。

一番可愛いと思ってる。
一番、手放したくない。

——なのに。

ちゃんと大事にできてるのか、
自分でもわからなくなっていた。

触れたい理由を、
言葉にできないまま。

部屋の明かりを落として、
スマホを手に取る。

考えるより先に、
指が動いていた。

「今日の夜も、会いに行く」

送信された画面を見つめながら、
俺は小さく息を吐いた。

それが、
一番簡単で、
一番確かな繋ぎ止め方だと思っていたから。