夜はまだ、元彼を思い出す

春。
結衣と蓮は、別々の大学に進学した。

キャンパスも、通学路も、
一緒に過ごしていた高校時代とはまるで違う。

「大学って、こんな感じなんだな」

蓮はそう言って、
新しい服、新しい友達、新しい空気を楽しんでいるようだった。

いわゆる“大学生デビュー”。
明るくて、目立って、周りにはいつも人がいる。

正直に言えば——
結衣の目には、少しだけ落ち着きがなく映った。

飲み会の話。
サークルの話。
「今日、講義サボったわ」なんて軽い言葉。

(ちゃんと、やれてるのかな)

そう思いながらも、
蓮がいつも通り夜に迎えに来てくれると、
そんな不安は胸の奥に押し込めてしまう。

大学生になって、
初めて、大人として過ごす夜。

緊張して、ぎこちなくて、
それでも蓮は、驚くほど丁寧だった。

強引なところは変わらないのに、
触れ方だけは、どこか慎重で。

「大丈夫?」

そう聞かれて、
結衣は小さくうなずいた。

——この人は、私を好きなんだよね。

そう思えたことが、
少しだけ嬉しかった。

大人になった実感と、
まだ子どものままの不安。

その両方を抱えたまま、
二人の大学生活は始まった。